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総肺静脈還流異常症

先天性心疾患

総肺静脈還流異常症の概要

総肺静脈還流異常症(Total Anomalous Pulmonary Venous Return:TAPVR)は、心臓の先天性心疾患の1.5%を占め、肺からの酸素の豊富な血液が通常の左心房に直接流入せずに、上大静脈、門脈、右心房など体循環に還流している疾患です。正常であれば肺から心臓の左側に酸素の豊富な血液を送っている血管である肺静脈が、心臓の右側に接続され、心臓の左側と右側を隔てる壁の孔を通って左心に流れます。総肺静脈還流異常症は、肺静脈が還流する部位によって「上心臓型、心臓型、下心臓型、混合型」の4つに分類され、新生児期に重篤な循環不全を引き起こす可能性があるので適切な早期診断と治療が不可欠です。全身に酸素豊富な血液が流れない重篤な場合は、生後すぐに手術が必要になることがあります。

総肺静脈還流異常症の種類

総肺静脈還流異常症は、肺静脈が還流する部位によって4つに分類されます。これらの分類は臨床的アプローチや手術戦略の決定において重要です。以下は4つの分類の特徴です。

I型:上心臓型

上心臓型は、肺静脈は共通の集合静脈を形成し、その後、左上大静脈や上大静脈に接続します。この形態は総肺静脈還流異常症の中で最も一般的であり、手術の際には、異常な接続を切断し、肺静脈を左心房に再接続する必要があります。上心臓型は他の心疾患と合併していることがあります。

II型:心臓型 

心臓型は、肺静脈は心内に直接還流し、通常は右心房の後壁に接続します。この心臓型は、しばしば心房中隔欠損症(ASD)と関連しており、手術中に修復する必要があります。また、肺静脈狭窄のリスクが高いため、手術後のフォローアップが特に重要です。

III型:下心臓型 

下心臓型は、肺静脈は腹部を通って下大静脈や肝静脈に接続します。この下心臓型は最も重篤な合併症を引き起こす可能性があり、緊急手術が必要な場合があります。

IV:混合型 

混合型は、肺静脈は上記の複数のパターンで体循環に還流します。この混合型は非常に稀で、手術方法は解剖学的特徴に基づいて決定されます。

総肺静脈還流異常症 発症の原因

総肺静脈還流異常症は、胎児期の心臓発育中の異常に起因し、遺伝的要因や妊娠中の環境要因が関与している可能性があります。未だ原因は解明されていませんが主に以下の原因が考えられます。

遺伝的要因

特定の遺伝子変異や染色体異常が関与している可能性があります。心臓の先天性疾患の家族歴がある場合も、そのリスクが高まる可能性があります。

環境的要因

 妊娠初期における特定の薬物やアルコールの摂取は、胎児の心臓の発達に影響を与える可能性があります。 糖尿病やループスなどの慢性疾患を持つ母体は、胎児の心臓発達に影響を与える可能性があり、母体の健康状態も発症の要因となります。35歳以上の高齢出産も先天性心疾患のリスクが高まるとされています。これらの環境的ストレス(例えば、栄養不足や母体の化学物質への暴露)によって胎児に影響を受ける可能性があります。

総肺静脈還流異常症の症状

総肺静脈還流異常症は、大動脈と肺動脈の位置が正常と異なる状態であり、新生児期にチアノーゼを最も多く呈する先天性心疾患です。多くは出生直後からチアノーゼの症状が出現しますが、肺静脈に狭窄がない場合や閉塞のない上心臓型または心臓型の総肺静脈還流異常症の乳児は無症状のことがあります。

チアノーゼとは、毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5g/dl以上になると皮膚・粘膜の青紫色などの変化が出現します。チアノーゼを放置すると心不全症状が悪化し様々な合併症を引き起こす可能性があります。以下は主な総肺静脈還流異常症の症状です。

心不全症状

  • チアノーゼ
  • 呼吸困難(特に労作時呼吸困難)
  • 疲労感
  • 体重増加

4つの型によって症状が異なりますが、肺静脈の狭窄が早期から出現する場合には、肺うっ血に伴う重度のチアノーゼと多呼吸症状をきたし、放置すれば生後1ヶ月以内に死亡する可能性が高いため早期に外科的治療が必要となります。

総肺静脈還流異常症の診断

総肺静脈還流異常症の早期診断は、予後を改善するために不可欠であり、心エコー検査やCT、MRI検査によって4本すべての肺静脈が直接右房または体静脈に還流していることを確認する事で確定診断となります。特に、肺静脈狭窄や他の心臓異常を伴う場合、これらの合併症を早期に特定し治療計画に組み込むことが重要です。

聴診

医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。総肺静脈還流異常症の場合、軽度の収縮期雑音などの心雑音が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。総肺静脈還流異常症の場合、右房・右室負荷などの心電図波形が見られることがあります。

胸部X線検査

胸部X線は、心臓のサイズや形状、肺の血流の状態を評価します。総肺静脈還流異常症によって心臓が拡大しているか、肺に過剰な血流があるかを評価する事に役立ちます。肺静脈閉塞が強い場合、心拡大は伴わず肺うっ血が著明となり、肺野はびまん性のスリガラス状陰影となることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。総肺静脈還流異常症の確定診断には、心エコー検査が用いられます。心臓の構造と血流を視覚化し、狭くなっている弁の開口部と弁を通る血液量を描出できるため、形態診断や重症度を評価できます。肺静脈狭窄を伴う場合は、圧負荷、左房後方の異常共通肺静脈腔、異常肺静脈腔の体静脈または右房への流入の3点が認められます。

心臓CT検査

心臓CT検査は、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。肺静脈閉塞を伴わない場合、造影CT検査により還流の異常部位を同定することが可能です。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。特に無脾症候群などの複雑な心奇形に伴う症例に有用です。

総肺静脈還流異常症の保存的治療・対症療法

総肺静脈還流異常症は、肺うっ血に伴う重度のチアノーゼと呼吸困難による心不全症状により生後早期に死亡するリスクが高まります。総肺静脈還流異常症の治療の基本は外科的治療であり、閉塞を伴う新生児の場合、緊急の外科的手術が必要となります。確定診断がつき次第手術を行うことになります。

総肺静脈還流異常症は、通常手術が必要な重篤な先天性心疾患です。しかし、手術を行うまでの間や手術のリスクが高い患者には、保存的治療や対症療法が行われることがあります。

心不全の管理

心不全の症状を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。これらの薬物は症状の改善や心機能の安定化に役立ちます。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。酸素飽和度を改善し呼吸困難の症状を軽減します。

栄養療法

特に新生児や乳児の場合、総肺静脈還流異常症によるカロリー消費の増加や哺乳中の息切れにより適切な栄養摂取が困難な場合があります。栄養士と連携して、カロリー密度の高い食事などの特別な栄養サポートが重要になります。

保存的治療や対症療法は、総肺静脈還流異常症の根本的な治療ではなく、あくまで一時的な症状の管理や安定化を目的としています。また、手術のリスクを減らし手術の成功率を高めるための管理として重要であり、継続的なモニタリングと評価が不可欠です。

総肺静脈還流異常症の外科的治療法(手術について)

総肺静脈還流異常症に対する治療法は基本的には外科手術以外になく、病型に応じて共通肺静脈へのさまざまな到達法が報告されています。

人工心肺を用いて、4本の肺静脈が合流する共通腔を左心房に吻合し、肺で酸素化された血液が、左心房・左心室から全身へ流れるようにします。肺静脈~共通腔~垂直静脈のいずれかで狭窄があった場合は容易に肺うっ血を来すため、生後すぐに手術が必要な場合がほとんどです。

総肺静脈還流異常症 手技手順

手術方法は症例によって異なりますが、基本的な総肺静脈還流異常症の手術は以下の手順にて行われます。

①開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが左側開胸を行います。

②体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心臓の動きを止める為、心筋保護液という液体を流し、心停止させます。

③肺静脈の統合:Ⅰ型とⅢ型では、左心房と共通肺静脈を吻合する術式が取られます。共通肺静脈に切開を加え、対応する左心房後壁にも切開をおいて共通肺静脈と左心房をねじれのないよう、できるだけ大きな吻合口を作製します。Ⅱ型(心臓型)の場合は、心房中隔欠損を利用して、肺静脈を左房へと導くための通路を、自己心膜または人工布を使用して、作成します。または、Ⅰ型やⅢ型と同様に、共通肺静脈を切り取って、左心房と直接縫い合わせ、心房中隔欠損を縫い閉じることもあります。

④心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。

⑤閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

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入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

総肺静脈還流異常症とは何ですか?

総肺静脈還流異常症は、肺からの酸素豊富な血液が通常の左心房に直接流入せず、上大静脈、門脈、右心房など体循環に還流する先天性心疾患です。

総肺静脈還流異常症の種類にはどのようなものがありますか?

総肺静脈還流異常症は、「上心臓型、心臓型、下心臓型、混合型」の4つに分類されます。それぞれ肺静脈が還流する部位に基づいています。

総肺静脈還流異常症の診断方法は何ですか?

心エコー検査、CT、MRI検査が主に用いられ、これらにより肺静脈が右房または体静脈に還流していることが確認されます。

総肺静脈還流異常症の主な症状は何ですか?

チアノーゼ、呼吸困難、疲労感、体重増加などがあります。重篤な場合は、生後早期に手術が必要になることがあります。

総肺静脈還流異常症の治療法にはどのようなものがありますか?

主な治療法は外科的手術です。これには、共通肺静脈を左心房に吻合させる手技が含まれます。また、保存的治療や対症療法として利尿剤や酸素療法などが用いられることもあります。

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【参考文献】

・国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr10_tapvc/

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_ichida_d.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志
看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
 内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)