心疾患と突然死の概要
突然死とは
突然死とは、予期せず、心臓の異常などにより、健康状態に重大な問題がないと思われる人が死亡することを指します。一般的には、症状出現から1時間以内に死亡することを指しますが、場合によっては数時間以内に死亡する場合も含まれます。
心疾患と突然死の関係
心疾患は、突然死の最も一般的な原因です。心疾患の中でも、特に以下の疾患が突然死のリスクを高める可能性があります。
不整脈
- 致死性不整脈(例:心室細動、心室頻拍)は心臓が正常なリズムで拍動しなくなることを意味します。心室細動では心臓が効果的に血液を全身にポンプできず、重要な器官への血液供給が停止します。これが非常に迅速に対処されなければ、致命的となり得ます。
- 他にブルガダ症候群やQT延長症候群などの不整脈が誘因となって、致死性不整脈への移行がみられることがあります。
- その他の不整脈(例:心房細動、心房頻拍)は直接的には致命的ではないかもしれませんが、心不全や脳卒中のリスクを高め、間接的に突然死のリスクを増加させます。
虚血性心疾患
- 心筋梗塞は、冠動脈の閉塞により心筋への血液供給が停止する状態であり、心筋細胞の壊死を引き起こします。これにより心臓のポンプ機能が大幅に低下し、突然死を引き起こす可能性があります。
- 狭心症は、冠動脈の狭窄による心筋への血流が制限される状態です。なかでも不安定狭心症など重度の場合は、心筋への血液供給が不十分になり、突然の心停止につながる可能性があります。
- 心筋梗塞の3大合併症の1つに不整脈があり、致死性不整脈などの出現により突然死の誘因となります。
大動脈解離
- 大動脈解離は、大動脈壁が裂けることにより血液が大動脈の層間に漏れ出す状態です。これにより、心臓への血液供給が急激に減少する可能性があり、突然死につながるリスクが非常に高い致死率の高い循環器救急疾患です。
- 特に急性大動脈解離は、前兆となる症状がなく突然発症するのが特徴であり、発症後放置すると突然死や時間の経過と共に死亡率が高まるため、即座に救命が必要な心疾患です。
心筋症
- 肥大型心筋症では、心筋の肥大が心臓の機能を妨げ、不整脈や心不全を引き起こすことがあります。これらは突然死につながる可能性があります。
- 拡張型心筋症では、心筋が異常に拡張し、心臓が効果的に血液をポンプできなくなります。この低下したポンプ機能は心不全や不整脈出現による突然死につながる可能性があります。
突然死に繋がる急変の予兆
キラーシンプトムの主な種類と特徴
キラーシンプトムとは、「患者急変対応」の中で創造された造語であり、“急変に結びつく危険な徴候” という意味を持ちます。命に関わる重大な症状のことで、胸痛、呼吸困難、意識障害などが含まれます。これらの症状は、突然現れる場合が多く迅速な対応が生死を分けることもあります。しかし、実際60〜70%の症例で、心肺停止の6〜8時間前に何らかの”危険な徴候”となるサインが認められるということが、複数の論文などによって報告されている事実もあります。突然死の予兆である”急変に結びつく危険な徴候”を把握することは、突然死を防ぐうえで非常に重要です。以下はキラーシンプトムの特徴的な症状です。
胸痛
- 突然の胸痛、特に圧迫感や締め付け感、焼けるような痛み
- 痛みは数秒から数分間続き、休息しても改善しない
- 左腕、首、背中、あごなどに痛みやしびれが広がる
- 息切れ、吐き気、冷や汗などの症状を伴う
呼吸困難
- 安静時または軽度の活動でも呼吸が苦しくなる
- 息を吸う時にゼーゼーという喘鳴音が聞こえる
- 唇や指先が紫色になる
- 突然の激しい咳や痰が出る
意識障害
- 突然意識を失い、呼びかけに反応しなくなる
- 言葉がうまく話せなくなる
- 呂律が回らなくなる
- 一時的に意識を失い、すぐに回復する
その他のキラーシンプトム
- 突然の激しい頭痛
- めまいや立ちくらみ
- 顔面蒼白
- 異常な発汗
- 激しい腹痛
- 突然の歩行障害
急変時の対応
AED(自動体外式除細動器)の使用
AEDの使用手順
周囲にAEDがあるか確認する。
- AEDの電源を入れる。
- 音声ガイダンスに従って、患者に電極パッドを貼り付ける。
- AEDが心電図を分析し、必要に応じて電気ショックを行う。
- 救急車が到着するまで、AEDの指示に従って患者をモニターし続ける。
AED使用時の注意点
- 患者が意識を失っている場合は、呼吸と脈を確認する。
- 呼吸がない場合は、心肺蘇生を開始する。
- 脈はあるが呼吸がない場合は、人工呼吸を行う。
- AEDはあくまで応急処置であり、専門的な医療介入が必要である。
緊急通報
- 患者が意識を失っている場合は、即座に119番に通報する。
- 意識がある場合でも、呼吸困難、胸痛、著しい出血などの症状がある場合は、躊躇せずに119番に通報する。
- 通報時には、患者さんの症状、場所、状況などを正確に伝える。
その他の対応
- 急変時は、1人で背負いこまず周囲の他者に協力を求める。
- 患者を安全な場所に移動させる。
- 患者を温かく保つ。
- 患者を落ち着かせる。
- 嘔吐した場合、気道が塞がれないように注意する。
突然死予防の生活習慣
心疾患は、悪性新生物(腫瘍)に次いで日本における死因の第2位であり、他の疾患と比べて突然死のリスクが極めて高い疾患です。心疾患による突然死を防ぐためには、日頃の生活習慣や健康管理が重要です。
定期的な健康診断
定期的な健康診断を受けることで、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの心疾患のリスクファクターを早期に発見することができます。これらのリスクファクターを適切に管理することで、心疾患の発症や悪化を防ぐことができます。
健康的な食生活
健康的な食生活は、心臓の健康を維持するために重要です。具体的には、以下の点に注意しましょう。
- 野菜、果物、全粒穀物を多く摂る
- 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取を控える
- コレステロール値を下げる効果のある不飽和脂肪酸を多く摂る
- 塩分の摂取を控える
- 糖分の摂取を控える
適度な運動
適度な運動は、心臓の健康を促進し、高血圧や肥満などの心疾患のリスクファクターを予防することができます。週に150分程度の有酸素運動と、週に2回の筋力トレーニングを行うことを目標にしましょう。
ストレス管理
ストレスは、心疾患のリスクファクターの一つです。ストレスを溜めないように、リラクゼーションや適切に休息を取るようにしましょう。
その他
- 禁煙する
- 過度な飲酒を控える
- 十分な睡眠をとる
- これらの生活習慣を継続することで、心疾患による突然死のリスクを軽減することができます。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
突然死とは何ですか?
突然死とは、予期せず、心臓の異常などにより、健康状態に重大な問題がないと思われる人が死亡することを指します。症状の出現から1時間以内に死亡するケースが一般的ですが、数時間以内の場合も含まれます。
心疾患が突然死にどのように関係していますか?
心疾患は突然死の最も一般的な原因であり、特に不整脈、虚血性心疾患、大動脈解離、心筋症がリスクを高める可能性があります。これらの疾患は心臓の正常な機能を妨げ、致命的な結果を招くことがあります。
AEDはどのように使用しますか?
AEDの電源を入れた後、音声ガイダンスに従って患者の裸の胸に電極パッドを貼り付けます。AEDは心電図を分析し、必要に応じて自動で電気ショックを行います。救急車が到着するまで、指示に従って患者をモニターし続けます。
突然死の予兆にはどのようなものがありますか?
突然死の予兆となるキラーシンプトムには、胸痛、呼吸困難、意識障害などがあります。これらの症状は、命に関わる重大な徴候であり、迅速な対応が必要です。
緊急時にはどのように対応すれば良いですか?
患者が意識を失っている場合は、まず119番に通報し、AEDを使用するか心肺蘇生を開始します。意識があるが呼吸困難や胸痛などの重篤な症状がある場合も、躊躇せずに119番に通報してください。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈薬物治療ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf【株式会社増富関連コラム】
・不整脈とは
・致死性不整脈
・心筋梗塞
・狭心症
・大動脈解離
・心筋症
・心疾患と心肺蘇生法(CPR)
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)