ステントグラフト手術とは
ステントグラフト内挿術は、大動脈瘤の治療法の一つで、一般的に足の付け根からカテーテルを挿入し、血管の壁を内側から補強する手術です。開胸や開腹が不要なので患者さんの体に対する負担が少なく、手術時間も同じ大動脈瘤の外科手術である人工血管置換術と比較して、短いことがメリットです。
ステントグラフト内挿術では、大動脈瘤ができている瘤こぶの両側にある正常な血管同士を橋渡しするような形で、バネ付きの人工血管を挿入します。瘤ができている部分の内側に正常な血管と同じ太さの筒を入れることで、瘤の部分に血液が流れないようにします。瘤に血液が流れなければ膨らんだ部分に圧力がかからないため、瘤のさらなる拡大を防ぐことができます。このようにして、瘤の破裂を予防する仕組みです。
開胸・開腹して瘤を取り除く人工血管置換術と比較すると、体への負担(傷の大きさ・手術時間など)は少なくて済むものの、根治性については劣ります。ステントグラフト内挿術は瘤を切除する手術ではないため、術後に血液が漏れてしまったり、瘤が破裂してしまったりするリスクはゼロにはできません。また、ステントグラフト内挿術が適応になる大動脈瘤の種類も限られており、現在は下行大動脈瘤と腹部大動脈瘤に適応されています。ただ、今後ステントグラフトの改良が進めば、適応が拡大する可能性は考えられるでしょう。
人工血管置換術とステントグラフト内挿術には、それぞれにメリットとデメリットがあります。大動脈瘤の場所や合併している病気、検査結果などの情報に加え、様々な側面から治療法を決定します。
手術手順
手術方法は症例によって異なりますが、一般的なステントグラフト内挿術(腹部大動脈瘤)は以下のような手順にて行われます。
①全身麻酔下にて、執刀医のDrが左右の両足の付け根(鼠経部)を数㎝切開して、大腿動脈がみえるようにします。
②大腿動脈からカテーテルを挿入し、カテーテル内部から造影剤という血管をみやすくするお薬を注入し、レントゲンで瘤のある部分の最終確認を行います。
③大腿動脈から瘤の部分にステントグラフトを留置します。
④必要なときは、大腿動脈から枝分かれした血管(内腸骨動脈、下腸間膜動脈、腰動脈など)にも金属製のコイル(詰め物)を入れます。
⑤切開した鼠経部を閉創し、手術終了です。
症例にもよりますが、通常の手術時間は3時間前後です。手術のあとは、経過が順調ならば翌日には口から食事をとることを再開します。ベッドから起き上がることも積極的に進めます。手術後3、4日で造影CTを撮影して、問題がなければ退院していただくことができます。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
ステントグラフト内挿術とはどのような手術ですか?
ステントグラフト内挿術は、大動脈瘤の治療に使用される手術で、足の付け根からカテーテルを挿入し、大動脈に人工血管を留置する最小侵襲手術です。
ステントグラフト内挿術の主なメリットは何ですか?
主なメリットは開胸や開腹が不要で、患者の体への負担が少なく、手術時間が短く、回復が早いことです。
ステントグラフト内挿術はどの種類の大動脈瘤に適していますか?
現在、ステントグラフト内挿術は下行大動脈瘤と腹部大動脈瘤の治療に特に適しています。
ステントグラフト内挿術の手順はどのようなものですか?
全身麻酔のもと、大腿動脈からカテーテルを挿入し、ステントグラフトを瘤のある部分に留置するのが一般的な手順です。
ステントグラフト内挿術のリスクやデメリットは何ですか?
ステントグラフト内挿術は瘤を切除するわけではないため、血液が漏れたり瘤が破裂するリスクは完全には排除できません。また、適応する大動脈瘤の種類にも限りがあります。
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心疾患情報執筆者
増田 将
株式会社増富 常務取締役
プロフィール
医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例