単心室症の概要
単心室症(Single Ventricle : SV, Univentricular Heart : UVH)は、心臓の先天性疾患の1.5%、約7000人に1人が罹患する疾患であり、心室が1つしか機能的に存在しない状態を指します。通常、心臓は左右2つの心室を持ち、それぞれが血液を体と肺に送り出す役割を果たしています。しかし、単心室症では1つの心室が三尖弁と僧帽弁の両方からの血流を受けている稀な先天性心疾患であり、肺動脈狭窄を合併している場合には新生児期よりチアノ-ゼの症状を呈します。単心室症の乳児では、通常、出生後すぐに集中治療室での治療が必要です。単心室症の治療では、肺への血液量をコントロールしながら段階的に手術による修復が必要であり、長期的な治療計画と共にフォローが必要です。現在、様々な手術法の確立によって、チアノ-ゼのない状態での成長発育や生命予後改善が期待できるようになりました。
単心室症の種類
単心室症は、左室型単心室と右室型単心室に分かれており、以下はその種類の特徴です。
左室型単心室症(左室単心室)
左室型単心室症では、心室中隔が存在せず、左室のみが機能的な心室として働いています。左室型単心室症は、右室が小さく発育していない、または全く存在しないことが特徴であり、しばしば大血管転位(TGA)や肺動脈閉鎖症(PA/IVS)と関連しています。
右室型単心室症(右室単心室)
右室型単心室症では、右室が主要な心室として機能し、左室が小さく発育しているか、または存在しない状態です。右室型単心室症は、しばしば三尖弁閉鎖症や三尖弁異常と関連しています。
単心室症 発症の原因
単心室症は先天性の心疾患であり、多くの場合、その罹患原因は明らかにされていません。主に以下の原因が考えられます。
遺伝的要因
単心室症の発症には遺伝的要因が関与していることが示唆されており、一部の遺伝子変異や染色体異常が、単心室症や他の先天性心疾患と関連していることが報告されています。
環境要因
母親が妊娠中に特定の薬物(例:抗てんかん薬、抗うつ薬など)を摂取した場合や、アルコールを摂取した場合、単心室症のリスクが高まる可能性があります。また、母親が糖尿病を持っている場合も、胎児に単心室症が発症するリスクが増加します。
単心室症の症状
単心室症は、心室のあいだの壁がないため、心室の中で静脈血と動脈血が混ざり合います。静脈血が混ざった血液が体に流れるため主な症状としてチアノーゼが現れます。チアノーゼとは、毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5g/dl以上になると皮膚・粘膜の青紫色などの変化が出現します。チアノーゼを放置すると心不全症状が悪化し様々な合併症を引き起こす可能性があります。以下は主な単心室症の症状です。
心不全症状
- チアノーゼ
- 呼吸困難(特に労作時呼吸困難)
- 疲労感
- 手足のむくみ
単心室症によって心臓が体に十分な栄養を供給できない場合、年齢に比べて体重や身長の増加が遅れ発育遅延に繋がる可能性があります。
単心室症の診断
心電図検査
心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。左室型単心室では左軸偏位と左室肥大、右室型単心室では右室肥大の特徴的な心電図波形が見られることがあります。
胸部X線検査
胸部X線は、心臓のサイズや形状、肺の血流の状態を評価します。単心室症によって心臓が拡大しているか、肺に過剰な血流があるかを評価する事に役立ちます。
心エコー検査
心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。単心室症の確定診断に用いられま す。
心カテーテル検査
心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液の流れを測定 する検査です。心臓カテーテルと血管造影により肺血流量、肺血管抵抗、肺動脈の発育の程度、心機能や弁の逆流など手術に必要なデータを得ることができます。
単心室症の保存的治療・対症療法
単心室症の乳児では、通常、出生後すぐに集中治療室での治療が必要です。また、肺への血液量をコントロールしながら段階的な手術による修復が必要であり、長期的な治療計画と共にフォローが重要となります。通常、出生からシャント手術や肺動脈絞扼術など状態によっては3回以上の手術が必要となることがあり、最終的にはフォンタン手術を行うことが目標となります。保存的治療や対症療法は、病気の根本的な治療ではなく、症状の緩和などを目的とした治療を指します。
経過観察:
定期的な医療チェックと検査を通じて病態の進行を把握し適切なタイミングでの手術を検討します。
薬物療法
心臓の負担を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。これらの薬物は症状の改善や心臓や肺機能の負担を減らすのに役立ちます。
呼吸困難の管理
呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。
心理的サポート
出性後より、長期的フォローが必要な先天性心疾患と向き合う上での患者家族への心理的サポートが必要です。
単心室症の外科的治療法(手術について)
治療の基本は、心臓手術です。単心室症の治療は患者様により様々な方法があります。
代表的な治療法は新生児期から乳児期にかけて、肺動脈絞扼術や体肺シャント手術(BTシャント)などで肺への血液量をコントロールしながら、グレン手術を経て、最終的に1−2歳でフォンタン手術を実施することです。フォンタン型手術では、一つの心室のみで肺動脈、大動脈の循環を維持していくことになります。フォンタン型手術を行うためには、BTシャント手術や両方向性グレン手術など、幾つかの段階的手術を経なくてはなりません。これらの手術を乗り切るには数多くの基準があり、心機能が良いこと、肺の循環が良いこと(肺血管抵抗が低い)などの条件がととのわなければならず、患者様全員がフォンタン型手術を受けられるわけではありません。
例)肺動脈閉鎖を伴う単心室症の場合
BTシャント手術(+肺動脈絞扼術)→両方向性グレン手術後→フォンタン型手術後
単心室症(グレン手術)手技手順
手術方法は症例によって異なりますが、代表的な単心室症の手術としてBTシャント手術(+肺動脈絞扼術)にて肺を鍛えた後にグレン手術を行います。グレン手術は上大静脈と肺動脈を吻合します。
- 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
- 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。
- 上大静脈の吻合:上大静脈と肺動脈を吻合します。
- 心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
- 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。
単心室症(フォンタン手術)手技手順
グレン手術を終えた後にフォンタン手術を行います。フォンタン手術は全身から血液が返ってくる下大静脈を肺動脈に繋ぐ手術です。グレン手術をせず、フォンタン手術にて上大静脈、下大静脈両方を肺動脈に繋ぐ場合もあります。
- 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。
- 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。
- 下大静脈の吻合:上大静脈と肺動脈を吻合します。直接吻合せずに人工血管を使用する場合もあります。
- 心臓機能の回復:切り開いた心臓を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
- 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。関連手術:BTシャント 肺動脈絞扼術
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
単心室症とは何ですか?
単心室症は、心臓の先天性疾患で、心室が1つしか機能的に存在しない状態を指します。この疾患では、左右の心室のどちらかが発育不全で、心臓の正常な機能に影響を及ぼします。
単心室症の種類にはどのようなものがありますか?
単心室症には左室型単心室と右室型単心室の2種類があります。左室型では左室が主要な心室として機能し、右室型では右室が主要な心室として機能します。
単心室症の原因は何ですか?
単心室症の原因は完全には明らかではありませんが、遺伝的要因や母親の妊娠中の特定の薬物摂取、アルコール摂取、糖尿病などの環境要因が関与する可能性があります。
単心室症の治療法にはどのようなものがありますか?
単心室症の治療には、肺への血液量をコントロールしながら段階的に手術による修復が必要です。主な手術方法には、BTシャント手術、グレン手術、フォンタン手術があります。
単心室症の診断にはどのような検査が用いられますか?
単心室症の診断には、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、心カテーテル検査などが用いられます。これらの検査により心臓の構造や機能、血液の流れなどを詳細に調べることができます。
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心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)