脳梗塞と心血疾患の関係
脳梗塞とは、脳出血やくも膜下出血などの脳卒中の1つであり、脳の血管が突然詰まることにより血流が途絶え、脳の神経細胞が壊死する疾患です。
脳の細胞は、突然血流が止まると数時間以内に完全に壊死し、再生が困難なため、一旦脳梗塞を起こすと日常生活に支障をきたす重篤な機能障害や生命に関わることもあります。
心臓と脳梗塞の間には深い関連性があり、心臓の健康が直接脳の健康に影響を及ぼすことが広く認識されています。以下の記事では、この複雑な関係性について、心臓の基本的な機能、脳梗塞の発生メカニズム、そして心血疾患が脳梗塞に与える影響について詳細に説明します。
心血疾患と脳梗塞について
心臓と脳は、人体において生命維持のために最も重要な器官であり、それぞれが互いに深く影響を与え合っています。ここでは、心臓の機能、脳梗塞の定義について説明します。
心臓の機能と重要性
- 酸素と栄養の供給: 心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割を果たし、酸素と栄養を細胞に供給します。
- 代謝産物の除去: 二酸化炭素や代謝の副産物を運び、体外に排出する手助けをします。
- ホルモンの輸送: 様々なホルモンを体の必要な部位へ運ぶ役割も担っています。
脳梗塞の定義と発生メカニズム
- 定義: 脳梗塞は、脳への血流が何らかの原因で阻害され、脳組織が損傷する状態を指します。
- 発生メカニズム: 最も一般的な原因は、血管の閉塞によるもので、これは血栓や空気の塊が血管を詰まらせることによって起こります。
心血疾患が脳梗塞を引き起こすリスク要因
心血疾患と脳梗塞は、共通のリスク要因と病態生理学を共有しており、一方が他方の発生リスクを高める可能性があります。ここでは、心血疾患が脳梗塞を引き起こす具体的なリスク要因について詳細に説明します。
心房細動が脳梗塞に与える影響
- 心房細動と血栓: 心房細動は心臓の上室である心房が不規則に収縮する状態であり、血液が心房内で小刻みに震え続け停滞することで血栓形成のリスクを高めます。
- 心房細動と脳梗塞:心房細動によって形成された血栓が脳に達すると、脳梗塞を引き起こす可能性があります。特に心房細動によって、左心耳内で血流が停滞することにより血栓が形成されやすくなります。
- 管理と予防: 心房細動の患者では、抗凝固薬による治療が脳梗塞予防のためにしばしば推奨されます。
心筋梗塞後の血栓形成と脳への影響
- 心筋梗塞と血栓形成: 心筋梗塞は、心臓の筋肉への血液供給が急に遮断される状態です。これにより心臓組織が損傷し、修復過程で血栓が形成されることがあります。この血栓が脱落し血流にのって脳の血管を塞ぐことで脳梗塞が発生するリスクがあります。
- 二次予防の重要性: 心筋梗塞後の患者管理では、再発防止として抗血小板療法や抗凝固療法が重要です。
心血管疾患による全身の血流動態の変化
- 血流動態の変化: 心血管疾患は、血管の硬化や狭窄を引き起こし、全身の血流動態を変化させます。これにより、脳への血液供給が不十分になる場合があり、脳組織への酸素や栄養素の供給が減少し、脳梗塞のリスクが高まります。
- 動脈硬化: 心血疾患に関連する動脈硬化は、脳への血液供給を低下させ、脳梗塞のリスクを増加させます。
- 血圧の管理: 高血圧は心臓に負担をかけ、脳血管に損傷を与えることができます。高血圧は脳梗塞の重要なリスクファクターであり、血圧の管理が重要です。
- 生活習慣の改善: 禁煙、健康的な食生活、定期的な運動は、心血管疾患および脳梗塞のリスクを低減するために推奨されます。
脳梗塞の治療
脳梗塞は、細い血管が多発性に詰まる「ラクナ梗塞」と動脈硬化と最も関係が深い「アテローム血栓性脳梗塞」、心房細動などの不整脈が原因となる「心原性脳塞栓症」の3種類があり、患者の状態に合わせて治療が行われます。治療の主な目標は、損傷を最小限に抑え、患者の機能回復を最大化することです。
虚血性脳梗塞の治療
虚血性脳梗塞は、脳への血流が血栓や塞栓によって遮断されることによって発生します。脳梗塞の発症から4.5時間が超急性期であり、発症後早期に、遮断された血管を再開通すると症状が劇的に改善する可能性があります。虚血性脳梗塞の治療には以下のアプローチがあります。
急性期の治療
- 経口血栓溶解療法(t-PA): t-PAとは、組織型プラスミノーゲンアクチベータを用いた血栓溶解療法のことであり、一般的に発症後4.5時間以内の場合に治療の適応となります。同製剤を静注することで血栓を溶解し、血流を回復させることが可能となります。
- 血栓回収療法: 血栓回収療法は、麻痺や言語障害などが発症してから8時間以内に、脳の太い動脈(主幹動脈)が詰まったことによる脳梗塞と診断された患者に対して行われる「脳血管内カテーテル治療」です。血栓を回収する特殊な装置を使用し、物理的に血栓をカテーテルにて回収します。
二次予防
- 抗血小板薬: アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬が、再発防止のために使用されます。
- 経口抗凝固剤: 心房細動が原因の場合、ワルファリンや非ビタミンK拮抗薬(Novel Oral AntiCoagulants:NOAC)が処方されることがあります。
出血性脳梗塞の治療
出血性脳梗塞は、脳梗塞が生じた後、その部位に再度血液が流れることにより出血した状態です。脳梗塞後、脳内での出血によって特徴づけられ、出血の原因や範囲に合わせて治療が行われます。
急性期の治療
- 血圧管理: 高血圧は出血を悪化させる可能性があるため、厳密に管理する必要があります。
- 開頭手術: 脳内出血の止血や血腫除去による減圧などの目的で開頭手術を行うことがあります。
二次予防
- 生活習慣の改善: 禁煙、健康的な食生活、適度な運動などが推奨されます。
- 定期的なフォローアップ: 出血性脳梗塞のリスク要因を管理し、再発を防ぐために定期的な医療フォローアップが必要です。
脳梗塞の予防と心血疾患の管理
脳梗塞の予防と心血疾患の効果的な管理は、脳血管疾患の発症リスクを減少させる上で極めて重要です。適切な心血疾患の管理と脳梗塞の予防のために必要な、リスク因子の識別と管理、そして生活習慣の改善及び薬物療法について詳細に説明します。
適切な心血疾患の管理と治療の役割
- 定期的な健康診断: 定期的な受診を通じて心血疾患の早期発見を図ります。
- 個別化された治療計画: 患者の状態に応じた治療計画を立案し、心血疾患の進行を防ぎます。
- 血圧管理: 高血圧は脳梗塞の重要なリスクファクターであるため、適切な血圧管理が重要です。
リスク因子の識別とコントロール
- 不健康な生活習慣の変更: 喫煙、過度の飲酒、不健康な食生活は、心血疾患及び脳梗塞のリスクを高めるため、これらの習慣を改善することが重要です。
- 脂質の管理: LDLコレステロールは動脈硬化を促進し、脳梗塞のリスクを増加させるため、食事や薬物療法による管理が必要です。
生活習慣の改善と薬物療法の利用
- 健康的な食事: 減塩食など心臓に優しい食事を取り入れることが勧められます。
- 定期的な運動: 週に150分の中程度の強度の運動が心血疾患と脳梗塞の予防に有効です。
- 薬物療法: 心血疾患の管理に必要な薬物(例、降圧薬、抗凝固薬、脂質異常症治療薬)を適切に使用します。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
脳梗塞とは何ですか?
脳梗塞は、脳の血管が突然詰まることにより血流が途絶え、脳の神経細胞が壊死する疾患です。脳出血やくも膜下出血などの脳卒中の1つに分類されます。
心血疾患が脳梗塞を引き起こすリスク要因は何ですか?
心血疾患と脳梗塞は共通のリスク要因を共有しており、心房細動や心筋梗塞などの状態は、血栓形成を高め、これが脳に達すると脳梗塞を引き起こす可能性があります。
虚血性脳梗塞の治療方法は何ですか?
虚血性脳梗塞の治療には、経口血栓溶解療法(t-PA)や血栓回収療法があります。これらは、発症後早期に遮断された血管を再開通させることで、症状の改善を目指します。
出血性脳梗塞の治療にはどのようなアプローチがありますか?
出血性脳梗塞の治療には、高血圧の厳密な管理や、必要に応じて開頭手術を行い、脳内出血の止血や血腫の除去を目指します。
脳梗塞の予防と心血疾患の管理にはどのような方法がありますか?
脳梗塞の予防と心血疾患の管理には、適切な血圧管理、不健康な生活習慣の改善、脂質の管理、健康的な食事、定期的な運動、そして必要に応じた薬物療法が重要です。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本脳卒中学会
脳卒中治療ガイドライン2021
https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)