肺動脈狭窄症の概要
肺動脈狭窄症は、心臓の先天性心疾患の8〜10%を占め、心臓の右心室から肺への血流の道である肺動脈が狭くなることによって起こる疾患です。肺動脈狭窄症を有する小児の多くは無症状で経過し、多くの患者が成人期まで症状がみられません。肺動脈弁狭窄症が進行すると、右心室から肺に流れる血液が流れにくくなるため、右心室に負担がかかり、失神、狭心症、呼吸困難などの症状が引き起こされます。肺動脈狭窄症は「肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁上部狭窄症、肺動脈弁下部狭窄症」の3種類があり、肺動脈狭窄症の診断が確定すれば、主にカテーテル治療と外科的治療が選択されます。
肺動脈狭窄症の種類
肺動脈狭窄症は、心臓の右心室から肺動脈にかけて狭窄があることで血流が悪くなる疾患であり、以下3つに分類されます。
肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁狭窄症は、肺動脈弁が通常よりも狭くなっている状態です。
肺動脈弁上部狭窄症
肺動脈弁上部狭窄症は、肺動脈の弁上もしくは末梢にかけて狭窄がある状態です。
肺動脈弁下部狭窄症
肺動脈弁下部狭窄症は、右室流出路の肺動脈弁下(右室漏斗部)の線維筋性に狭窄がある状態です。
肺動脈狭窄症 発症の原因
肺動脈狭窄症は、先天性によるものが多く後天的な状況によっても引き起こされることがあります。主に以下の原因が考えられます。
遺伝的要因
肺動脈狭窄症は、しばしば患者が生まれながらに持っている先天的な状態です。これは、妊娠中の母体の感染症、特定の薬物の使用、あるいは遺伝的な要因など、胎児の心臓が形成される段階で何らかの問題が発生した結果として起こります。
心臓の構造的異常
肺動脈狭窄症は、しばしば他の心臓の構造的異常と関連しています。これには、心室中隔欠損症(VSD)、大血管転位、ファロー四徴症などが含まれます。これらの状態は、心臓の血流に影響を与え、肺動脈への圧力を増加させることで、狭窄を引き起こす可能性があります。
感染症や炎症
特定の感染症や炎症性の状態は、心臓組織の損傷を引き起こし、その結果、肺動脈の狭窄を引き起こす可能性があります。これには、リウマチ熱や特定のウイルス感染症が含まれます。これらの状況では、早期の診断と適切な抗炎症治療が、さらなる合併症を防ぐために不可欠です。
外傷や医療処置による影響
胸部への重度の外傷や、心臓手術などの医療処置は、肺動脈の損傷や狭窄の原因となることがあります。これは後天性の狭窄の一形態であり、これらの状況においては、患者の迅速な評価と適切な介入が必要となります。
肺動脈狭窄症の症状
肺動脈狭窄症は、多くの患者が成人期まで無症状で経過し軽症であれば自覚症状も少ないため疾患に気付かないことも多くあります。肺動脈弁狭窄症が進行すると、右心室から肺に流れる血液が流れにくくなるため、右心室に負担がかかり、失神、狭心症、呼吸困難などの症状が引き起こされます。以下のような心不全症状が現れることがあります。
- 失神
- 狭心症
- 呼吸困難
肺動脈狭窄症は、通常先天性異常によって起こり、後天的に成人で起こることはまれです。肺動脈の狭窄が重度の場合、小児期において特徴的な心雑音の聴取で疾患が見つかり診断されることが少なくありません。重度の肺動脈弁狭窄症では、小児期に 心不全を起こすこともありますが、通常成人期まで症状はみられません。
肺動脈狭窄症の診断
聴診
医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。肺動脈狭窄症の場合、特徴的な駆出性収縮期雑音などの心雑音が聴取されることがあります。
心電図検査
心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。肺動脈狭窄症の場合、右室肥大、右軸偏位、右房負荷などの心電図波形が見られることがあります。
胸部X線検査
胸部X線は、心臓のサイズや形状、肺の血流の状態を評価します。肺動脈狭窄症によって心臓が拡大しているか、肺に過剰な血流があるかを評価する事に役立ちます。
心エコー検査
心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。肺動脈狭窄症の確定診断には、心エコー検査が用いられます。心臓の構造と血流を視覚化し、狭くなっている弁の開口部と弁を通る血液量を描出できるため、形態診断や重症度を評価できます。
心カテーテル検査
心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液の流れを測定する検査です。肺動脈狭窄症の場合、治療方針の検討や治療目的で行われ、右室圧の上昇や肺動脈との収縮期圧較差などから重症度の評価が可能です。
肺動脈狭窄症の治療法の保存的治療・対症療法
肺動脈狭窄症は、小児から成人期まで無症状、または軽症で疾患に気付かずに経過することが多く、症状の進行に伴い、カテーテル治療や外科的治療などが行われます。
肺動脈狭窄症は、軽症で経過する場合が多く早急な治療が必要ないと判断された場合は肺動脈狭窄症の状態や症状の進行に合わせて保存的治療や対症療法が行われます。
経過観察
肺動脈狭窄症は、軽症または無症状で経過することが多く、その場合治療を行わず経過観察を行います。
薬物療法
心不全の症状を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。これらの薬物は症状の改善や心機能の安定化に役立ちます。
呼吸困難の管理
呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。酸素飽和度を改善し呼吸困難の症状を軽減します。
カテーテル治療
薬物治療などの保存的治療で肺動脈狭窄症が改善されない場合にカテーテル治療や外科治療などが行われます。重度の症状や心エコー検査で高度の狭窄が認められた場合に、経皮的バルーン肺動脈弁形成術(PTPV)が行われることがあります。経皮的バルーン肺動脈弁形成術(PTPV)は、先端にバルーンの付いたカテーテルを静脈から心臓内にまで挿入し、弁の開口部を拡張して血管の狭窄を内側から広げる治療です。また、若年または複数の手術の既往を持つ患者の場合、先天性心疾患の専門施設において経皮的弁置換術が行われることがあります。
肺動脈狭窄症の外科的治療法(手術について)
狭窄の場所や形態によっては手術でしか治療できない場合もありますが、近年カテーテル治療の技術の進歩により、手術件数は減少傾向にあります。
手術の方法は、肺動脈の狭い部分によって異なりますが、肺動脈弁交連切開術(肺動脈弁どうしがくっついて狭くなっている部分を切開して広げる手術)、肺動脈形成術などが行われます。
肺動脈狭窄症(外科的手術)手技手順
手術方法は症例によって異なりますが、肺動脈狭窄症の手術は以下の手順にて行われます。
- 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが左側開胸を行います。
- 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心臓の動きを止める為、心筋保護液という液体を流し、心停止させます。
- 狭窄部の切除/弁置換:狭窄部分を切除したり、狭窄のもととなっている肺動脈弁を人工弁に置換したりすることで狭窄を取り除きます。
- 心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
- 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
肺動脈狭窄症とは何ですか?
肺動脈狭窄症は、心臓の右心室から肺への血流の道である肺動脈が狭くなることによって起こる先天性心疾患です。多くの患者が無症状で、成人期まで症状がみられないことが多いです。
肺動脈狭窄症の主な症状は何ですか?
肺動脈狭窄症が進行すると、右心室に負担がかかり、失神、狭心症、呼吸困難などの症状が引き起こされます。しかし、多くの患者は無症状または軽症で経過します。
肺動脈狭窄症の診断にはどのような方法が用いられますか?
肺動脈狭窄症の診断には、聴診、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、心カテーテル検査が用いられます。これらの検査により、心臓の構造と血流の詳細を評価できます。
肺動脈狭窄症の治療方法には何がありますか?
肺動脈狭窄症の治療には、カテーテル治療や外科手術があります。症状の進行や狭窄の度合いにより、治療方法が異なります。
肺動脈狭窄症はどのような原因で発生しますか?
肺動脈狭窄症の多くは先天性のもので、遺伝的要因や妊娠中の母体の感染症、特定の薬物の使用などが原因で発生します。また、心臓の構造的異常や感染症、炎症、外傷や医療処置によっても引き起こされることがあります。
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【参考文献】
・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_ichida_d.pdf
心疾患情報執筆者
増田 将
株式会社増富 常務取締役
プロフィール
医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例