心疾患患者の看護ケア
心疾患を持つ患者の看護ケアは、症状の管理、リスク因子の評価、教育、そして心血管系の更なる損傷の予防に焦点を当てる必要があります。このケアプロセスは、看護評価から始まり、患者の症状のモニタリングとリスク因子の評価を含みます。
看護評価
看護評価は、患者の現在の健康状態、生活習慣、過去の病歴を理解するための第一歩です。この評価を通じて、看護師は患者のニーズを特定し、適切な看護計画を立てることができます。
症状のモニタリング
心疾患患者の症状は、非常に変化しやすいため、定期的なモニタリングが不可欠です。症状のモニタリングには以下の点が含まれます:
- 呼吸困難:休息時または活動時の息切れの有無と程度を評価します。
- 胸痛:その特性、発生時間、持続時間、関連症状(息切れ、発汗等)を記録します。
- 浮腫:足、足首、腹部の腫れを確認し、日による変化をモニタリングします。
- 疲労感:日常活動での疲れやすさの程度を評価します。
リスク因子の評価
心疾患のリスク因子には、可変因子(生活習慣に関連する因子)と不変因子(年齢、性別、遺伝など)があります。リスク因子の評価には以下が含まれます:
- 高血圧:血圧の管理状況と薬物治療の遵守を確認します。
- 喫煙:現在または過去の喫煙習慣を評価し、必要であれば禁煙支援を提供します。
- 脂質異常:最近の血液検査結果を確認し、食生活の改善や薬物治療の必要性を検討します。
- 糖尿病:血糖管理の状態と糖尿病治療薬の遵守状況を評価します。
- 運動不足:定期的な運動の有無とその種類、頻度、強度を記録します。
生活習慣の改善支援
心疾患患者の看護ケアでは、生活習慣の改善も重要な役割を担います。これには以下が含まれます。
- 栄養指導:心臓に優しい食生活、特に塩分や飽和脂肪酸の摂取量の管理について指導します。
- 運動療法:患者の健康状態に合わせた運動計画を提案し、定期的な運動の習慣を促します。
- ストレス管理:ストレスが心血管系に与える影響を理解し、リラクゼーションや適切なストレス対処方法を指導します。
特別な看護ケア
心疾患患者においては、特定の状況下での特別な看護ケアが必要になる場合があります。その1つが酸素療法です。酸素療法は、血中の酸素飽和度が低下した患者に酸素を提供する治療法であり、呼吸困難、低酸素血症、特定の心臓症状を持つ患者に対して行われます。心疾患において酸素療法は重要な治療法であり、特に人工呼吸器などは高度な看護ケアが求められます。
酸素療法
酸素の投与方法
酸素療法には様々な投与方法があり、患者の状態や酸素需要に応じて選択されます。
鼻カニューレ
- 軽度から中等度の酸素補給に用いられ、患者の快適さを最大限に考慮した方法です。
- 酸素流量が6L/分以上になると鼻粘膜の乾燥や損傷リスクがあるため使用は推奨されていません。
酸素マスク
- 酸素流量5L/分以上の中等度の酸素供給に用いられます。酸素マスクを1〜4L/分で使用した場合、マスク内に呼気が貯留しやすく、その呼気を再吸入ことにより動脈血二酸化炭素分圧(Arterial Partial Pressure of Carbon Dioxide:PaCO2)が上昇する危険性があり、酸素流量5L/分未満で酸素マスクを使用する場合は、PaCO2の上昇には注意が必要です。
リザーバーマスク
- 酸素流量6L/分以上の高濃度の酸素を必要とする患者に用いられます。一般的にはより重度の酸素不足に用います。吸気時、リザーバーバッグ内に貯留した酸素を吸入するため、高濃度の酸素を吸入することが可能です。
ベンチュリマスク
- 特定の酸素濃度を正確に供給する必要がある場合に使用されます。肺機能が低下している患者に推奨され、呼吸状態に影響を受けず、吸入酸素濃度を一定に保つことが可能となります。
高流量鼻カニューレ
- 鼻カニューレを用いて最大60L/分の酸素流量を吸入酸素濃度21~100%で投与が可能となり、加湿された酸素を高流量で供給することで効果的な酸素化を図れます。
酸素療法の監視
酸素療法を行う際には、患者の酸素飽和度を定期的に監視することが重要です。これには以下の点が含まれます。
パルスオキシメーター
- 非侵襲的な方法で患者の酸素飽和度を監視し、血中酸素レベルが安全範囲内に保たれていることを確認します。酸素飽和度の正常値は96%以上であり、COPDなどの基礎疾患によっても個人差はありますが、90%以下の場合呼吸不全と言われています。
動脈血ガス分析(BGA)
- 動脈血ガス分析(Blood Gas Analysis:BGA)は、酸素療法の効果を正確に評価するために使用され、血中の酸素レベル、二酸化炭素レベル、pHを測定します。これは特に、重度の呼吸困難や酸素療法の調整が必要な患者に対して行われます。
臨床的評価
- 酸素療法の効果は、パルスオキシメーターやBGAの結果だけでなく、患者の臨床的状態の変化を通じても評価されます。これには、呼吸の容易さ、活動耐容性、意識レベルの改善が含まれます。
人工呼吸器の管理
人工呼吸器は、肺胞換気の維持、酸素化の改善、呼吸仕事量の軽減、原疾患や炎症による障害の進展の悪循環を断つなどの主に4つの目的で使用されます。適切な酸素化と二酸化炭素の排出を維持するために使用されます。人工呼吸器の種類と適用と人工呼吸器に関する看護ケアについて詳しく解説します。
人工呼吸器の種類と適用
人工呼吸器には、様々な種類と適用があります。主に以下のような分類が存在します。
侵襲的陽圧換気(IPPV)
- 侵襲的陽圧換気(invasive positive pressureventilation:IPPV)は、気管挿管または気管切開によって患者の人工気道を介して酸素と空気と混ぜて人工的に肺に送り込む侵襲的な換気方法です。主に、心疾患では手術後の患者や重度の呼吸不全を持つ患者に適用されます。
非侵襲的陽圧換気(NPPV)
- 非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressureventilation:NPPV)は、顔マスクや鼻マスクを介して酸素を供給する非侵襲的換気方法です。主に、軽度から中等度の呼吸不全を持つ患者や、侵襲的換気からの離脱を試みる患者に適用されます。
各人工呼吸器は、患者の状態に応じて、呼吸のリズム(同期間欠的陽圧呼吸、連続的陽圧呼吸など)や酸素の濃度、圧力の設定を調整できます。
人工呼吸器の看護ケア
人工呼吸器を使用している患者に対する看護ケアは、機器の正確な管理と患者の快適性の確保に重点を置いています。以下の点が含まれます。
気道の管理
- 気管内チューブの適切な位置の確認、気道内吸引、湿度と清潔さの維持。
モニタリング
- 患者の呼吸状態(呼吸数、酸素飽和度)、気管挿管部の固定状態、人工呼吸器の設定とアラームの監視。
皮膚障害予防
- 人工呼吸器の装着により医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)のリスクがあり、定期的に皮膚状態を観察し機器による除圧や必要時にはスキンケアを図る必要があります。
肺炎予防
- 喀痰吸引や定期的な体位変換、呼吸リハビリテーションなどを実施し、肺炎のリスクを減少させます。
口腔ケア
- 定期的な口腔ケアを行い、感染予防と患者の快適性の向上を図ります。
栄養管理
- 経管栄養または静脈栄養を通じて、適切な栄養状態の維持をサポートします。
コミュニケーションのサポート
- 言語的・非言語的なコミュニケーション方法を提供し、患者との効果的なコミュニケーションを促進します。
継続的なケアとリハビリテーション
心疾患やその他の重篤な健康状態からの回復過程において、継続的なケアとリハビリテーションは患者の生活の質を大幅に向上させることができます。この過程は、運動療法、栄養管理、家庭でのケアとサポートなど、多岐にわたるアプローチを含みます。
リハビリテーションの目標と計画
リハビリテーションの主な目標は、患者が可能な限りの自立性と生活の質を回復することです。これには、身体機能の改善、精神的なサポート、日常生活活動(ADL)の自立性の向上が含まれます。
運動療法
運動療法はリハビリテーションの重要な部分であり、以下のような多様な目標を達成するために使用されます。
- 心肺機能の向上:定期的な運動は心臓の効率を高め、全身の血流を改善します。
- 筋力の強化:特定の筋群をターゲットにした運動により、全体の身体機能が向上します。
- 体重管理:適切な体重の維持または達成は、心血管病のリスクを減少させます。
- ストレス軽減:運動はストレスを減らし、心の健康を促進します。
栄養管理
適切な栄養摂取は、リハビリテーションの成功に不可欠です。栄養管理の主な要点には以下が含まれます。
- バランスの取れた食事:心臓に優しい食事は、飽和脂肪の低減、高繊維食品の摂取増加を目指します。
- 塩分摂取の管理:高血圧を避けるために、食塩摂取量を制限します。
- 水分摂取:適切な水分補給は、体の機能を最適に保つために必要です。
家庭でのケアとサポート
家庭でのケアは、患者が日常生活に戻るための重要なステップです。サポートするためには、以下のような計画が必要になります。
在宅看護の計画
- 継続的な医療と監視:定期的な健康チェックと必要に応じた医療介入の確保。
- リハビリテーションサービスの利用:家庭での運動療法や栄養指導などのリハビリテーションプログラムの実施。
- 社会的サポート:家族、友人、コミュニティリソースからのサポートを組織化し、患者が社会復帰をスムーズに行えるよう支援します。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
心疾患患者の看護ケアで最も重要な点は何ですか?
心疾患患者の看護ケアで最も重要な点は、症状の管理、リスク因子の評価、生活習慣の改善、特別な看護ケアの提供、およびリハビリテーションを含む総合的なアプローチを行うことです。
看護評価において、何を重点的に評価するべきですか?
看護評価では、患者の現在の健康状態、生活習慣、過去の病歴を理解することが重点的に評価されるべきです。これにより、患者のニーズを特定し、適切な看護計画を立てることができます。
症状のモニタリングにはどのような点が含まれますか?
症状のモニタリングには、呼吸困難、胸痛、浮腫、疲労感の評価が含まれます。これらの症状は心疾患の進行を示す重要な指標となるため、定期的なモニタリングが不可欠です。
酸素療法の目的は何ですか?
酸素療法の目的は、血中の酸素飽和度が低下した患者に酸素を提供し、呼吸困難、低酸素血症、特定の心臓症状を持つ患者の状態を改善することです。これにより、患者の呼吸機能をサポートし、全身への酸素供給を確保します。
リハビリテーションの主な目標は何ですか?
リハビリテーションの主な目標は、患者が可能な限りの自立性と生活の質を回復することです。身体機能の改善、精神的なサポート、日常生活活動(ADL)の自立性の向上を含む総合的なアプローチを通じて達成されます。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本呼吸療法医学会
ガイドライン・指針・プロトコル
https://square.umin.ac.jp/jrcm/contents/guide/index.html・一般社団法人 日本クリティカルケア看護学会
「気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド」気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(2021.2)
https://jaccn.jp/msup/wp-content/uploads/2023/07/OralCareGuide_202102.pdf
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)