株式会社増富

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左心低形成症候群

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左心低形成症候群の概要

左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome、HLHS)は、先天性心疾患の一種で、左心室およびそれに付随する血管(大動脈および僧帽弁など)が通常よりも小さく(低形成)、正常に機能しない状態を指します。この症状は出生前の胎児期に発生し、治療を受けない場合、新生児期以降の早い時期に重篤な循環不全を引き起こす可能性があります。

左心低形成症候群の種類

左心低形成症候群(HLHS)は、複数の異なる解剖学的欠陥の組み合わせによって特徴づけられます。この症候群は、左心室が未発達(低形成)であることに加え、関連する構造異常が存在するため、単一の病態ではなく、複数の型に分類されることが一般的です。これらの異なる型は、特定の心構造の影響の程度によって区別されます。

従来型左心低形成症候群(HLHS)

このタイプは、左心室、僧帽弁、大動脈弁、および大動脈の重度の低形成を含みます。これは最も一般的な形態であり、最も重篤な症例を対象としています。治療の複雑さは、これらの構造の発達不全の度合いに大きく依存します。

大動脈弁狭窄と左心低形成

 このタイプでは、主に大動脈弁が影響を受け、その狭窄(または閉鎖)が左心室の発達を妨げています。医師の視点から見ると、このタイプは、狭窄が原因で左心室の圧が異常に高くなり、結果として心筋が過度に厚くなる可能性があるため、心機能にさらなる負担をかける可能性があります。

僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成

 ここでは、僧帽弁が主な問題であり、その異常が左心の他の部分の発達に影響を及ぼします。この状態は、左心室への血流が著しく制限されるため、左心のさらなる低形成を引き起こす可能性があります。

左心低形成症候群 発症の原因

左心低形成症候群(HLHS)は、複数の心臓の構造的異常に起因する重篤な状態であり、その発症の原因は完全には解明されていません。しかし、異なるタイプごとに、いくつかの可能性が提案されています。

従来型左心低形成症候群(HLHS)

 このタイプは、心臓の左側の構造の発育不全によって特徴付けられます。遺伝的要因、母体の環境要因(感染症、薬物使用、特定の医薬品の影響など)、あるいはこれらの組み合わせが、発症に関与していると考えられています。特定の遺伝的変異や染色体異常が関連している可能性もあるが、多くの症例では特定の原因を特定することは困難です。

大動脈弁狭窄と左心低形成

このタイプは大動脈弁の狭窄に直接関連しており、胎児期の心臓の発育中に弁の形成に影響を与える何らかの障害が発生した結果と考えられています。この状況は、遺伝的要因や、弁の成長を妨げる可能性のある母体の疾患・環境要因に起因する可能性があります。

僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成

 僧帽弁の異常は、弁の開発に関わる遺伝的または環境的要因の影響を受けることが指摘されています。ここでも、母体の感染、栄養状態、特定の薬物の使用などが、胎児の心臓発育に影響を及ぼす可能性があります。

左心低形成症候群の症状

左心低形成症候群(HLHS)は、その解剖学的な特徴によって異なる種類に分類されますが、これらの種類には共通する症状があり、またいくつかの特有の症状が存在する場合があります。以下に、主な種類ごとの一般的な症状を説明します。

従来型左心低形成症候群(HLHS)の症状

生後すぐにシアン(青白)状態、呼吸困難、餌を食べることの困難さ、および低血圧が見られることが一般的です。これらの症状は、心臓の左側の部分が十分に機能せず、体への血流が不足していることに起因します。

このタイプのHLHSは、特に新生児期において非常に危険であるため、症状の出現を迅速に把握し、適切な対応を行う必要があります。症状が現れた場合、迅速な医療介入が生命を救うことがしばしばあります。

大動脈弁狭窄と左心低形成の症状

シアン、疲労感、急速な呼吸、および餌を食べる際の困難さが挙げられます。重度の狭窄は、体全体への血流が不十分であることを示しているため、これらの症状が発現します。

大動脈弁の狭窄により左室が過度に負荷を受けると、心不全の徴候が現れる前に、急速な悪化が見られる場合があります。したがって、これらの症状には迅速に対応し、適切な診断と治療を行う必要があります。

僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成の症状

症状: シアン、呼吸困難、および一般的な活力の喪失が特徴です。僧帽弁の異常は左心房の圧力上昇を引き起こし、それが肺への圧力上昇となり、結果としてこれらの症状が現れます。

僧帽弁の問題は、特に肺の循環に影響を及ぼし、肺高血圧症を引き起こす可能性があります。これは長期的な健康問題へとつながるため、早期の診断と適切な治療戦略の立案が重要です。

左心低形成症候群(HLHS)の診断

左心低形成症候群(HLHS)の診断は、病状の重篤さと急を要する状況を鑑み、多角的アプローチが必要とされます。HLHSの種類によって診断方法に違いはあるものの、以下の通り基本的な診断手順は同様です。

聴診

医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。動脈管開存症は、特徴的な心雑音が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です。動脈管開存症の場合、左房負荷と左室肥大所などの心電図波形が見られることがあり、肺高血圧症の合併例では、右室肥大所見の心電図波形が見られることがあります。

胸部X線検査

胸部X線は、心臓のサイズや形状、肺の血流の状態を評価します。動脈管開存症の場合、左第2、3、4弓の突出を伴う心拡大の心陰影や肺血流量増加による肺血管陰影の増強の所見を認めることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。動脈管開存症の確定診断には、心エコー検査が用いられます。動脈管開存症の大きさ、左心拡大の有無、下行大動脈における拡張期逆行性血流の有無、左肺動脈における拡張期順行性血流などについて評価します。

心カテーテル検査

心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液の流れを測定する検査です。動脈管開存症の場合、カテーテル治療として用いられ、肺高血圧合併例では肺動脈圧の上昇、造影検査により大動脈から肺動脈への短絡血流などが見られます。

大動脈弁狭窄と左心低形成の診断

胎児エコーによる早期発見が可能ですが、出生後の診断としては、心エコーを用いて大動脈弁の狭窄や左室の低形成を確認します。追加的に心カテーテル検査が必要な場合もあり、より詳細な情報を提供します。

 心カテーテルは侵襲的な手法であるため、患者の状態を十分に考慮した上で適切なタイミングで行われるべきです。また、このタイプでは、左室の機能不全による早期の合併症が生じる可能性があるため、細心の注意を払いつつ診断を進める必要があります。

僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成の診断

このタイプもまた、胎児超音波検査によって診断されることがあります。出生後、急性の呼吸困難やシアン症が見られる場合、心エコーによって僧帽弁の異常や左心房の拡大が確認されます。さらに、心カテーテル検査によって、左心の血流の詳細を明らかにします。

 僧帽弁の異常は肺の循環に影響を与え、急激な症状の悪化を引き起こす可能性があるため、症状の第一発見者がこの可能性を念頭に置きつつ迅速に行動することが重要です。また、肺高血圧の発展を避けるためにも、早期診断と適切な介入が必要です。

左心低形成症候群の保存的治療・対症療法

左心低形成症候群(HLHS)は、高度に専門的な治療を必要とする重篤な状態であり、保存的治療は病態の安定化や手術へのブリッジとして非常に重要な役割を果たします。以下、HLHSの種類ごとの主な保存的治療について詳述します。

従来型左心低形成症候群(HLHS)の保存的治療・対症療法

出生直後にプロスタグランジンE1(PGE1)の投与を開始することが一般的です。これは、動脈管を開放し、体への血流を改善するためです。また、肺動脈圧を調節するために、酸素投与や呼吸管理も重要です。

 PGE1の早期投与は、重要な動脈管の閉鎖を防ぎ、子供がより安定した状態で手術を受けられるようにするため、臨床的に重要です。しかし、血圧の低下や呼吸抑制などの副作用に注意を払う必要があり、患者の血行動態を細かくモニタリングすることが重要です。

大動脈弁狭窄と左心低形成の保存的治療・対症療法

このタイプもまた、PGE1による動脈管の開放が初期治療として施されます。さらに、心不全の兆候を管理するために、利尿剤や降圧剤、必要に応じてイノトロープを使用することがあります。

 心不全の管理は、循環動態の安定化と肺の水分負荷の軽減を目指します。利尿剤は、肺への水分負荷を減らすことで呼吸を助けますが、電解質のバランスを崩すリスクがあるため、慎重なモニタリングが求められます。

僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成の保存的治療・対症療法

PGE1による動脈管の維持と肺動脈圧の管理が基本となりますが、この状態では左房圧が上昇しやすいため、さらに厳格な呼吸管理と心不全治療が必要になることがあります。

 左心房圧の上昇は肺水腫を引き起こすリスクがあります。そのため、酸素療法や呼吸サポートを適切に管理することが、症状の悪化を防ぐうえで決定的に重要です。また、急速な症状の進行に備えて、緊急手術への準備も同時に進める必要があるでしょう。

これらの保存的治療は、いずれも病態を安定させ、根本的な治療への道を開くための一時的な措置です。

左心低形成症候群(HLHS)の外科的治療法(手術について)

左心低形成症候群(HLHS)の手術はNorwood(ノーウッド)手術(第一期手術)を行います。

Norwood手術とは一言で言うと「細い大動脈と太い肺動脈を合体させて新しい大動脈を作る手術」です。肺血流はどうするかと言うと、①BT shunt(鎖骨下動脈を肺動脈につないで肺血流を増やす手術)②RV-PA conduit(右室から肺動脈につないで肺血流を増やす方法)の2つの方法があります。

 右心室のからでている肺動脈幹から上行大動脈→大動脈弓→下行大動脈へと新しい大動脈の再建を行います。もともと肺動脈幹から出ていた左右の肺動脈は切り離します。肺への血流の確保は①BT shunt②RV-PA conduitのどちらかで行います。

 また近年、対象患者の拡大に伴い、Norwood手術前に両側肺動脈バンディングを行い、肺血流の制限を行いながら未熟な臓器の成長を待って1ヶ月前後でNorwood手術を行う施設も増えています。

 Norwood手術後は6ヶ月前後にBidirectional Glenn(両方向性グレン)手術呼ばれる第二期手術をおこない、さらに2歳前後にFontan(フォンタン)手術(第三期手術)まで到達すれば、チアノ-ゼの無い状態でその後の成長・発育が望まれます。

 現在,左心低形成症候群に対する新生児期の第一期手術としてはBTshuntあるいはRV-PA conduitによるNorwood手術と、新生児期の開心術を避けて第一期手術として両側肺動脈絞扼術を行う方法に大別されます。

さらに、両側肺動脈絞扼術後のNorwood手術時に、肺への血流路としてBT shuntあるいはRV-PA conduitを選択する方法と、Glenn手術を行う方法があります.どの治療手段も、それぞれ利点・欠点があります。どれが最良の方法という正解は無く、生まれてきた赤ちゃんの状態を考え、治療方法を選択することが大切であると考えます。

左心低形成症候群(HLHS) 手技手順

手術方法は症例によって異なりますが、左心低形成症候群の手術(Norwood手術)は以下の手順にて行われます。

①開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが左側開胸を行います。

②体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心臓の動きを止める為、心筋保護液という液体を流し、心停止させます。

③Norwood手術:1.肺動脈弁を含む肺動脈基部、2.上行大動脈(冠動脈)、3.弓部大動脈、4.下行大動脈を縫い合わせます。また右心室と肺動脈を人工血管で接続することで、肺への血流を確保します(RV-PA conduit)。

④心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。

⑤閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

左心低形成症候群 手術経過例

両側肺動脈バンディング→Norwood手術+RV-PA conduit→Glenn手術→Fontan手術

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

左心低形成症候群(HLHS)とは何ですか?

左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome、HLHS)は、先天性心疾患の一種で、左心室や大動脈などが正常よりも小さく低形成しており、正常に機能しない状態を指します。出生前の胎児期に発生し、治療を受けない場合、新生児期以降の早い時期に重篤な循環不全を引き起こす可能性があります。

左心低形成症候群の主な種類とは何ですか?

左心低形成症候群は、古典的なHLHS、大動脈弁狭窄と左心低形成、および僧帽弁閉鎖または極度の狭窄を伴う左心低形成の3つの主要なタイプがあります。これらは左心室や関連する心構造の異常に基づいて区別されます。

左心低形成症候群の診断方法にはどのようなものがありますか?

診断には、聴診、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、心カテーテル検査などが含まれます。これらの検査は、心臓の構造的異常を特定し、病態の評価を行うために重要です。

左心低形成症候群の治療法にはどのようなものがありますか?

保存的治療には、プロスタグランジンE1の投与、酸素療法、利尿剤や降圧剤の使用が含まれます。外科的治療には、Norwood手術、Glenn手術、Fontan手術などの段階的手術があります。

Norwood手術とはどのような手術ですか?

Norwood手術は、HLHSの第一期手術で、「細い大動脈と太い肺動脈を合体させて新しい大動脈を作る手術」です。肺血流の確保にはBTshuntかRV-PA conduitが用いられます。この手術はHLHSの治療において重要な役割を果たします。

関連コラム

【参考文献】

・国立循環器病研究センターhttps://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/pediatric_cardiovascular/tr10_tapvc/

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_Yasukochi.pdf

・一般社団法人 日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_ichida_d.pdf

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例