致死性不整脈の概要
不整脈とは、脈の乱れのことであり、正常な心拍数は1分間に50〜100回といわれており、脈拍の間隔が一定であることが特徴です。
致死性不整脈は、心臓の電気的活動に異常が生じることで、心拍が不規則になり、最悪の場合には心臓の突然死に至る可能性がある心室細動と心室性頻拍を指します。この不整脈は、心臓がけいれんすることで血液を効率的に全身に送り出すことが困難になるため、数ある不整脈の中で最も致死性が高く注意が必要となります。
定義と重要性
致死性不整脈は、心臓突然死を引き起こす心室細動や心室頻拍を指す最重症の不整脈です。心室細動は、心室が非常に速く不規則に興奮するため、小刻みに震えた状態になり、心臓は拍動しなくなります。心室頻拍は、心室から発生した異常刺激によって拍動が非常に速くなり、持続すると心室細動へ移行することもあります。
心室細動や持続性心室頻拍が発生すると、心臓のポンプ機能が著しく低下し、臓器への血液供給が停止する生命を脅かす緊急事態となります。致死性不整脈の早期発見と迅速な対応や処置が不可欠であり、また生存率を高めるために予防と管理が重要な鍵となります。
致死性不整脈の特徴
致死性不整脈は、その発生源や影響を受ける心臓の部位によって多様な形態をとります。
心室細動
心室細動〈ventricular fibrillation:VF〉は、心臓の心室が非常に速く不規則に収縮し心臓がけいれんしている状態です。心臓が全身に血液を効率的に送ることができなくなり、救命処置が遅れた場合、数分以内に致命的な結果を招く可能性があります。心臓突然死の約8〜9割が心室細動に起因すると言われています。
心室頻拍
心室頻拍〈ventricular tachycardia:VT〉は、心室から発生する異常に速い心拍であり、心室頻拍が持続すると重症致死性不整脈である心室細動へと移行することがあります。心室頻拍の中でも無脈性心室頻拍は、頻度の多い速すぎる心拍によって心室の拍出機能が十分果たせずに全身に血液が送り出せなくなってしまう状態であり、心室細動同様に心停止に伴う突然死のリスクを高めます。
致死性不整脈を誘発する不整脈
Brugada症候群
Brugada症候群は、心電図上にST上昇など特徴的な波形を示し、突然死のリスクが高まる遺伝性の病態です。 通常は無症状ですが、突然心室細動や心室頻拍に移行することがあります。
QT延長症候群
QT延長症候群は、心電図上QT間隔の延長により、多形性心室頻拍(トルサード・ド・ポアンツ)や心室細動などが誘発され、心停止による突然死を引き起こす危険性のある遺伝性の状態です。
発生メカニズム
不整脈の背後には様々な要因があり、それぞれが心臓の電気活動に異なる影響を与えます。
遺伝的要因
致死性不整脈を引き起こす恐れのあるBrugada症候群やQT延長症候群などは遺伝的要因があります。これらの症状は家族内で発生する傾向があり、遺伝子検査によってリスクの特定が可能です。
疾患要因
致死性不整脈は、心筋症や 冠状動脈疾患、Brugada症候群、QT延長症候群などの心疾患が誘因となって引き起こされることがあります。これら疾患の背景に致死性不整脈があることを十分理解する必要があります。
生活習慣と環境要因
過度のアルコール摂取、喫煙、過剰なカフェイン摂取、運動不足などの不健康な生活習慣は、不整脈のリスクを高めます。ストレスや睡眠不足も、心臓の電気活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
薬剤とその副作用
特定の薬剤、特に抗精神病薬や抗不整脈薬など、QT間隔を延長させる薬剤は、不整脈のリスクを増加させます。これらの薬剤の使用は、医師の厳格な監視のもとで行われるべきです。
診断方法
致死性不整脈の診断は、患者の生命を守るために重要です。正確な診断をするにあたって症状の識別から始まり、様々な検査が行われます。
症状と初期兆候の識別
不整脈の最初の兆候は、しばしば非特異的であり、患者によって異なることがあります。一般的な症状には以下のものが含まれます:
- 胸の不快感や痛み
- 息切れ
- 疲労感
- めまいや失神
- 心拍の異常感
致死性不整脈が持続すると、心臓は全身に血液を送り出すポンプとしての役割を果たせなくなり、脳への血流の低下により、めまいや失神を起こし、特に心室細動では意識不明になり、即座に治療しなければ死に至ります。これらの症状を経験した場合、患者は速やかに医療機関を受診することが重要です。
心電図(ECG)検査
心電図検査は、不整脈の診断において中心的な役割を果たします。心電図は、心臓の電気活動を記録し、不整脈の有無を確認することができます。
心電図検査
- 目的: 心臓の電気活動を記録し、心拍の異常を検出します。
- 方法: 患者の胸、腕、脚に電極を配置し、数分間で心臓の電気活動を記録します。
- 利点: 簡単かつ迅速に実施できる検査です。
ホルター心電図検査
- 目的: 24時間にわたり心臓の電気活動の監視を行います。
- 方法: 患者は、携帯可能な心電図記録装置を身に着けて日常生活を送ります。
- 利点: 長時間の監視により、不規則な心拍や見逃されがちな不整脈を検出できます。
運動負荷試験
- 目的: 運動中の心臓の反応を評価し、隠れた不整脈や心臓病を検出します。
- 方法: 患者に運動用トレッドミルまたは自転車エルゴメーターを使用してもらいながら心電図を取ります。
- 利点: 運動による心臓へのストレスが不整脈の誘発や潜在的な心臓病の診断に役立ちます。
遺伝子診断検査とその役割
遺伝子診断検査は、特定の遺伝性不整脈疾患やそのリスクを評価するために重要な検査です。心臓突然死の原因となる致死性不整脈の中には、遺伝的要因によって引き起こされるものがあり、遺伝子検査によりこれらの病態を特定することができます。
- 目的: 家族歴に基づくリスク評価、疾患の確定診断、および家族への遺伝相談。
- 方法: 患者の血液サンプルからDNAを抽出し、特定の遺伝子変異を検出します。
- 利点: 早期にリスクを特定し、適切な予防策や治療を行うことができます。
画像診断技術
画像診断技術は、心臓の構造的異常や機能不全を評価するために不可欠です。これらの技術により、不整脈の原因となる可能性のある心臓の問題を正確に特定することができます。
心エコー
- 心エコーは、心臓の動きと構造をリアルタイムで視覚化する非侵襲的な検査方法です。
- 目的: 心臓の大きさ、形、および心室や心房の動き、心臓弁の機能を評価します。
- 方法: 超音波を利用して心臓のイメージを生成します。
- 利点: 心臓の構造的な問題や機能不全を即座に検出することができます。
MRI検査とCT検査
MRI(磁気共鳴画像法)とCT(コンピュータ断層撮影)は、心臓の詳細な画像を提供し、心臓病の診断に役立ちます。
- MRI検査の目的: 心臓の構造と機能を非侵襲的に詳細に視覚化します。心筋の病変や心臓の血流評価に特に有用です。
- CT検査の目的: 心臓のカルシウムスコアリングや冠状動脈の評価に用いられ、動脈硬化の程度を特定します。
- 利点: MRIは柔軟性が高く、詳細な情報を提供します。CT検査は冠状動脈などの問題を明確にすることができます。
治療法と管理
致死性不整脈の治療と管理には、不整脈発症のリスク軽減と不整脈発生時の対処が重要であり、適切な不整脈の治療を行うことにより患者の生活の質を向上させることができます。
薬物療法
薬物療法は、不整脈を管理し、患者の症状を軽減するための治療です。使用される薬剤は、不整脈の種類と患者の健康状態によって異なります。
抗不整脈薬
抗不整脈薬は、心臓の電気的活動を正常化し、不整脈の予防と治療に用いられます。
- 利点: 不整脈を直接的に管理し、心臓のリズムを安定させる。
- 例: アミオダロン、ソタロール、フレカイニドなど。
- 注意点: 使用する際は、副作用や他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
β遮断薬
β遮断薬は、心臓のβアドレナリン受容体を遮断し、心臓の負担を減らし、心拍数を低下させます。
- 利点: 血圧の低下、心拍数の減少、心臓への酸素需要の減少。
- 例: プロプラノロール、メトプロロール、アテノロールなど。
- 使用場面: 高血圧、狭心症、心臓発作後の治療にも用いられます。
ACE阻害薬とARB
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は、血圧を下げ、心臓の負担を軽減します。
- 利点: 血圧の管理、心不全のリスク低減、心臓の保護。
- 例(ACE阻害薬): エナラプリル、リシノプリル。
- 例(ARB): ロサルタン、バルサルタン。
使用場面: 高血圧や心不全の患者に推奨されます。
非薬物療法
致死性不整脈の出現時の対処や不整脈の発生リスクを減少させるために、突然死などから患者の生命を守ることを目的として治療が行われます。
植込み型除細動器(ICD)
ICDは、心室細動や無脈性心室頻拍のような除細動の適応となる致死性不整脈を自動的に感知し、ペーシングや電気ショックを行う小型デバイスです。心室細動に対する有効な治療は、電気ショックのみであり、植込み型心臓除細動器(ICD)が推奨されます。他にブルガダ症候群やQT延長症候群などの特有の不整脈がある患者や、過去に心停止を経験した患者にも治療が検討されます。
カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションは、異常な心電気信号を発生させる心臓の特定部位を焼灼することによって無力化する治療法です。致死性不整脈では、特発性心室頻拍などに効果があります。
ライフスタイルの改善と予防策
心血管疾患のリスクを減少させ、健康的な生活を送るためには、ライフスタイルの改善が不可欠です。ここでは、特に重要な予防策として食生活と運動、ストレス管理、禁煙とアルコール制限に焦点を当てます。
食生活と運動
食生活の改善
- 心臓に優しい食事には、全粒穀物、果物、野菜、脂肪分の少ないタンパク質源(魚、豆、鶏肉)を豊富に含むものがあります。
- 飽和脂肪、トランス脂肪、過剰な塩分や砂糖の摂取を避けます。
定期的な運動
- 週に少なくとも150分の中程度の強度の有酸素運動(歩行、ジョギング、自転車)を目指します。
- 筋力トレーニングも週に2回以上行い、全身の筋肉を鍛えます。
ストレス管理
ストレスは心血管疾患のリスクを高めるため、効果的なストレス管理が重要です。
ストレスを管理する方法
- リラクゼーション
- 趣味や興味のある活動への参加
- 十分な睡眠を確保し、日常生活での休息時間を持つ
禁煙とアルコール制限
禁煙
- 喫煙は心血管疾患の主要なリスク因子です。禁煙は、心臓病のリスクを大幅に減少させます。
- 禁煙支援プログラムやニコチン代替療法などを利用して禁煙を目指しましょう。
アルコールの摂取を控える
過度のアルコール摂取は、高血圧や不整脈のリスクを高めます。
アルコールの過剰摂取は控えましょう。
緊急時対応と患者支援
緊急時に迅速かつ効果的に対応することは、患者の生存率を大幅に向上させることができます。特に心停止の場合、初期対応は貴重な時間と命を救う鍵となります。
心停止時の対応
心停止は、ポンプの役割をしている心臓が全身に血液を送ることを突然停止する状態です。心停止は、死に直結する状態であり、緊急かつ迅速な対応や処置が求められます。
心肺蘇生法(CPR)
心肺蘇生法(CardioPulmonary Resuscitation:CPR)は、心停止の際に行われる救命処置の一つです。呼吸や心臓が停止すると、脳へ酸素を送ることができず脳死する恐れがあります。CPRにより血液の循環を人工的に維持することにより脳などの生命維持に関わる重要な臓器への酸素供給を確保します。
手順
- 安全を確認し、患者が反応しない場合は救助を要請します。
- 患者を背中側の平らな場所に横たえます。
- 胸骨の中央に手を置き、肩の直下に位置するようにして、胸を約5cm(2インチ)押し下げます。
- 1分間に最低100回のリズムで胸骨圧迫を行います。
CPRは、AEDが到着するまで、または救急隊が到着して引き継ぐまで継続することが重要です。
自動体外式除細動器(AED)の使用
自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)は、心臓のけいれんにより心停止状態となっている心室細動や無脈性心室頻拍などの致死性不整脈を検出し、必要に応じて心臓に電気ショックを与えて正常なリズムを回復させる携帯型装置です。
使用方法
- AEDの指示に従って、パッドを患者の裸の胸に貼り付けます。
- AEDが心臓のリズムを分析し、ショックが必要かどうかを判断します。
- 必要に応じて、AEDが「ショックを与える」ボタンを押すよう指示します。
重要性: AEDの使用は、心停止後の最初の数分間で行うことが最も効果的であり、一般市民でも使用が奨励されています。AED機器から順番に音声で指示が出され、直感的な操作が可能となります。
これらの緊急時対応技術は、心停止に遭遇した際の救急蘇生法として非常に重要な役割を果たしています。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
致死性不整脈とは何ですか?
致死性不整脈は、心臓の電気的活動に異常が生じ、心拍が不規則になり、最悪の場合心臓突然死に至る可能性がある心室細動や心室性頻拍を指します。心臓が血液を効率的に全身に送り出すことが困難になり、非常に高い致死率を伴います。
致死性不整脈の診断方法にはどのようなものがありますか?
致死性不整脈の診断には、心電図(ECG)検査、ホルター心電図検査、運動負荷試験、および画像診断技術などがあります。これらの検査により、心臓の電気活動の異常や心臓構造の問題を特定することができます。
遺伝子診断検査の役割は何ですか?
遺伝子診断検査は、特定の遺伝性不整脈疾患やそのリスクを評価するために重要です。Brugada症候群やQT延長症候群など、家族歴に基づくリスク評価や疾患の確定診断、家族への遺伝相談に役立ちます。
致死性不整脈の治療方法にはどのようなものがありますか?
致死性不整脈の治療には、薬物療法(抗不整脈薬、β遮断薬など)、植込み型除細動器(ICD)、カテーテルアブレーションなどがあります。これらの治療は、不整脈の発症リスクを減少させ、発生時の対処を目的としています。
緊急時に致死性不整脈が発生した場合、どのように対応すべきですか?
致死性不整脈の緊急時対応には、心肺蘇生法(CPR)と自動体外式除細動器(AED)の使用が含まれます。心停止が発生した場合、速やかにCPRを行い、可能であればAEDを使用して心臓に電気ショックを与え、正常なリズムを回復させることが重要です。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈薬物治療ガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf【株式会社増富の関連コラム】
・不整脈とは
・特有の不整脈(WPW症候群/QT延長症候群/ブルガダ症候群)
・ペースメーカーとは
・カテーテルアブレーション
・心疾患と心肺蘇生法(CPR)
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務(ER、血管造影室(心血管カテーテル、脳血管カテーテル)
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、コロナ療養型ホテル、コールセンター)