株式会社増富

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胸腹部大動脈瘤手術の新たな血管内手術式について

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血管内手術とは

血管内手術は身体への負担が少なく、合併症のリスクも低いことから、胸腹部大動脈瘤治療の新たな標準治療として期待が高まっています。 この記事では、胸腹部大動脈瘤に対する血管内手術の術式や利点、そしての将来展望について詳しく解説していきます。

胸腹部大動脈瘤(TAAA)とは?

私たちの身体には、心臓から全身へ血液を送るための重要な血管である大動脈が走っています。この大動脈の壁が、動脈硬化や高血圧などの影響で弱くなり、風船のように膨らんでしまう病気が大動脈瘤です。

特に、心臓から腹部にかけて走行する大動脈のうち、胸部と腹部の両方にまたがって瘤ができる場合を**胸腹部大動脈瘤と呼びます。胸腹部大動脈瘤は、大動脈瘤の中でも特に複雑で、破裂すると命に関わる危険性が高い病気です。

血管内手術の利点

血管内手術は、従来の開腹手術と比較して、以下のような多くの利点があります。

  • 身体への負担が少ない: 2箇所程度の小さな切開で手術が完了するため、術後の痛みや回復が早く、入院期間も短縮されます。
  • 合併症のリスクが低い: 開腹手術と比較して、出血量、臓器損傷、麻痺などの合併症のリスクが大幅に減少します。
  • 高齢者や合併症を持つ患者にも適応可能: 従来の開腹手術ではリスクが高かった高齢者や、肺や心臓に持病を持つ患者にも、血管内手術は適応できる可能性があります。

新術式「エンドバスキュラーデブランチアオティックリペア(EDAR)」

EDARは、従来の血管内手術と同様に、足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、ステントグラフトを瘤のある部位に留置することで、瘤の拡大や破裂を防ぎます。

従来の血管内手術では、ステントグラフトを留置する位置が腎臓や腸などの重要な臓器に分岐する血管(分岐血管)に近い場合、十分な治療効果が得られない、あるいは分岐血管を塞いでしまうことで臓器への血流が阻害されるリスクがありました。

EDARでは、この問題を解決するために、分岐血管を維持したままステントグラフトを留置する技術が用いられています。具体的には、分岐血管の位置に合わせてステントグラフトに穴を開けたり、分岐血管を覆うようにステントグラフトを配置したりすることで、重要な臓器への血流を確保しながら胸腹部大動脈瘤を治療します。

従来の血管内手術とエンドバスキュラーデブランチアオティックリペア(EDAR)の比較

項目従来の血管内手術エンドバスキュラーデブランチアオティックリペア(EDAR)
術式足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、ステントグラフトを瘤のある部位に留置従来の血管内手術と同様のアクセスルートを使用し、分岐血管を維持したままステントグラフトを留置
適応比較的単純な形状の胸腹部大動脈瘤(TAAA)複雑な形状のTAAA(分岐血管に近い場合など)
ステントグラフト標準的なステントグラフトユニタリーマニホールドステントなどの特殊なステントグラフト
分岐血管への対応分岐血管を覆ってしまう可能性があるため、対応が難しい場合がある分岐血管を維持したままステントグラフトを留置可能
手術の複雑さEDARと比較して、比較的単純従来の血管内手術と比較して、複雑
治療効果適応症例では、有効な治療法である従来の血管内手術では治療が困難であった症例に対しても、有効な治療法となる可能性がある
合併症リスクある程度の合併症リスクが存在する従来の血管内手術と比較して、合併症リスクは低い傾向にある

EDARで使用するユニタリーマニホールドステントについて

ユニタリーマニホールドステントは、EDARにおいて中心的な役割を果たす、特殊な構造を持つステントグラフトです。従来のステントグラフトとは異なり、以下の特徴を備えています。

  • モジュール式: 複数のステントグラフトを組み合わせることができるモジュール式であるため、患者の血管の形状や瘤の大きさ、位置に合わせて最適な形で配置することができます。
  • 分岐型: 肝臓、腎臓、腸などの重要な臓器への血流を維持するための分岐枝が予め備わっているため、分岐血管を維持したままステントグラフトを留置することができます。
  • 柔軟性: 従来のステントグラフトよりも柔軟性が高いため、複雑な形状の血管にもスムーズに挿入し、正確な位置に留置することができます。
  • 段階的手術: 必要に応じて、手術を中断し、後日再開することができます。これは、患者の負担を軽減するだけでなく、より安全な手術の実施にもつながります。

従来のステントグラフトとユニタリーマニホールドステントの比較

項目従来のステントグラフトユニタリーマニホールドステント
構造単一構造モジュール式
形状円筒形円筒形を基本としつつ、分岐枝を備える
サイズあらかじめ決まったサイズから選択複数のモジュールを組み合わせることで、様々なサイズに対応可能
分岐血管への対応分岐血管を覆ってしまう可能性がある分岐血管を維持したまま留置可能
留置の難易度ユニタリーマニホールドステントと比較して、比較的容易従来のステントグラフトと比較して、複雑
適応比較的単純な形状の血管複雑な形状の血管(分岐血管が多い場合など)
利点* 費用が比較的安価複雑な形状の血管に対応可能
患者の血管に合わせてカスタマイズ可能
段階的な治療が可能
欠点* 複雑な形状の血管には対応できない場合がある
* 分岐血管を塞いでしまう可能性がある
費用が比較的高価
高度な技術を要する

EDARとトが拓く胸腹部大動脈瘤治療の未来

EDARは、ユニタリーマニホールドステントの登場により、複雑な形状のTAAAに対しても低侵襲で効果的な治療を提供できるようになりました。今後、さらなる技術革新や臨床研究の進展により、EDARはTAAA治療の標準治療として、より多くの患者に福音をもたらすことが期待されています。

よくある質問

新術式「エンドバスキュラーデブランチアオティックリペア(EDAR)」とは何ですか?

EDARは、胸腹部大動脈瘤に対する新しい血管内手術技術です。カテーテルを使い、分岐血管を維持しながらステントグラフトを留置することで、複雑な瘤を効果的に治療します。

EDARで使用されるユニタリーマニホールドステントの特徴は何ですか?

ユニタリーマニホールドステントは、モジュール式で組み合わせが可能なステントグラフトです。分岐型設計により臓器への血流を維持し、柔軟性が高いため複雑な血管にも適応可能です。

EDARと従来の血管内手術の違いは何ですか?

EDARは、従来の手術に分岐血管を維持する技術を追加したものです。これにより、複雑な形状の胸腹部大動脈瘤も治療可能で、柔軟かつ効果的な治療ができます。

EDARが胸腹部大動脈瘤治療においてどのような未来を拓くのですか?

EDARは低侵襲で効果的な治療法として、TAAA治療の標準治療となる可能性があります。これにより、より多くの患者が安全かつ効果的な治療を受けられるようになります。

ユニタリーマニホールドステントと従来のステントグラフトの違いは何ですか?

ユニタリーマニホールドステントはモジュール式で、分岐型設計により臓器への血流を維持します。従来のステントより柔軟で、複雑な血管に適応可能です。

【参考文献】

Yale Medicine. (n.d.).
 https://www.yalemedicine.org/news/endovascular-surgery-thoracoabdominal-aortic-aneurysm

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例