先天性心疾患の概要
新生児や子供の間で先天性心疾患がどの程度発生しているか、およびそれらの疾患が総出生数に対してどのような割合で存在するかをご紹介します。
新生児の100人に1人が罹患する
先天性心疾患は、新生児に一定の頻度で発生する比較的一般的な病態です。国際的な調査や研究によると、新生児の約1%、すなわち100人に1人の割合で先天性心疾患が発生しているとされます。これは、地域や人種による差はあるものの、全体的な発生頻度はかなり一定していることを示しています。この統計は、先天性心疾患の広範な影響を物語っており、早期診断と治療の重要性を強調しています。
2018年の厚生労働省調査では約3,000人の子供の発症
日本における具体的な数値を見ると、2018年のデータによると、新規に発症または診断された先天性心疾患の症例は12,106症例であり、その年の出生数918,397人に対して単純に計算すると、約1.3%の発生率となります。これは、国際的な統計よりもやや高い数字ですが、先天性心疾患の検出技術の進歩や診断基準の変化による影響も考慮する必要があります。
先天性心疾患の原因
心疾患の発生に影響を与える遺伝的要因や環境要因について紹介します。
原因は1つに絞れないことが多い
先天性心疾患の原因は非常に複雑で、多くの場合、単一の要因に絞り込むことが難しいです。遺伝的要因と環境要因の両方が関与することが一般的で、約85%の症例では複数の遺伝子異常とさまざまな環境要因が組み合わさって発症するとされています。
染色体の異常や環境因子が関連
先天性心疾患の原因としては、遺伝的要因にはDown症候群やTurner症候群などの染色体異常、22q11.2欠失症候群(顕微鏡では見えない程度の「22q11.2」と呼ばれる部分の欠失)やWilliams症候群などの染色体部分欠失、転写因子や成長因子の遺伝子変異などが挙げられます。また、環境要因としては、母体のウイルス感染、薬剤の内服、飲酒や喫煙、放射線被曝などがあります。遺伝的要因による症例は約13%、環境要因による症例は約2%とされています。
心臓や血管の形成過程での異常
先天性心疾患の多くは、心臓や血管の形成過程で発生する異常によって引き起こされます。たとえば、心臓の発生初期において二次心臓領域細胞や神経細胞が適切な場所に移動できないことが原因で発生する症例もあります。しかし、これらの症例の原因は多因子であり、一つの原因だけでは説明できないとされています。
先天性心疾患の種類と特徴
先天性心疾患を「非チアノーゼ性心疾患」と「チアノーゼ性心疾患」の2つの大きなカテゴリーに分け、それぞれの病態の症状や影響について紹介します。
非チアノーゼ性心疾患とチアノーゼ性心疾患に分けられる
先天性心疾患は、大きく「非チアノーゼ性心疾患」と「チアノーゼ性心疾患」の2つに分類されます。これらは、心臓や血管の形成過程で生じる異常によって発生します。非チアノーゼ性心疾患は先天性心疾患の60~70%を占め、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、動脈管開存症などが含まれます。これらは見た目にはわからず、大人になってから心電図検査や精密検査によって判明することがあります。
チアノーゼとは酸素不足による皮膚や粘膜の青紫色変色
チアノーゼ性心疾患は、血中の酸素が不足して皮膚や粘膜が青紫色に変色する症状が特徴です。これは、肺を通過して酸素を取り込むべき静脈血が動脈に流れ込んでしまうことによって発症します。チアノーゼ性心疾患にはファロー四徴症、完全大血管転位症、三尖弁閉鎖症、肺動脈閉鎖症などがあり、これらは幼いうちに発見されることが多いです(全体の30%~40%)。
先天性心疾患の症状
先天性心疾患が持つ幅広い症状のスペクトルに焦点を当て、症状が疾患の重症度や種類によってどのように異なるかを探ります。
無症状の場合が多く、発見しづらい
先天性心疾患は、40〜50種類にも及ぶ病態の集合体であり、患者によって症状や重症度が大きく異なります。特に軽度から中等度の先天性心疾患は、幼児期や小児期に無症状であることが多く、そのため発見が難しいことがあります。例えば、心房中隔欠損症は生まれた時から心房中隔に欠損がありますが、多くの場合、幼児期や小児期は無症状で、検診などで偶然発見されることが一般的です。
重症の場合、発育に影響が出ることも
一方で、重症の先天性心疾患は、出生後間もなくからチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる状態)、息苦しさなどの症状を示すことがあります。これらの症状は、特に新生児期や乳幼児期において顕著で、場合によっては発育にも影響を与える可能性があります。主な症状には、苦しそうに息をすること、ミルクを吸う量が少ないこと、体重が増えないことなどがあります。
先天性心疾患の検査・診断
先天性心疾患の検査と診断は、症状の有無や疾患の種類によって異なりますが、いくつかの主要な検査方法があります。
心臓超音波検査が最も重要
心臓超音波検査(エコー検査)は、先天性心疾患の診断において最も重要な検査の一つです。胎児期にも超音波検査を用いて病気の存在を疑うことがあります。出生後は、聴診や視診で心臓の雑音が指摘された場合、心臓の構造や心不全の状態、肺の血流状況などを詳細に確認するために心臓超音波検査が行われます。
心臓カテーテル検査が必要になることも
心臓カテーテル検査は、先天性心疾患の診断や治療方針の決定において重要な役割を果たす検査です。これは、足の付け根の血管から心臓まで細い管を通し、血管や心臓内の圧を測定したり、心臓の形を観察するために行われます。特に、心臓超音波検査だけでは診断が困難な症例や、治療の時期や方法を決定する際に必要となることがあります。
他の検査方法
加えて、胸部単純レントゲン写真、心電図、血液検査なども先天性心疾患の診断に用いられます。これらの検査は、心臓や肺の状態を詳しく調べるために行われ、病状の評価や治療方針の決定に役立てられます。
先天性心疾患の治療法
先天性心疾患の治療法は、病態の種類や重症度、患者の年齢などによって異なります。治療法には、手術介入や薬物療法、場合によっては経過観察が含まれます。
自然に改善するものもあるが、手術が必要になることが多い
先天性心疾患の中には、軽度で自然治癒するものもあります。しかし、多くの先天性心疾患は手術が必要となることが一般的です。手術の必要性は、病気の種類や症状によって決定されます。軽症の場合には手術を行わず、経過観察が行われることもあります。
複数回の手術が必要なこともある
特に重篤な先天性心疾患や、複雑な解剖学的異常がある場合には、複数回の手術が必要となることがあります。一度の手術で根治可能な疾患もあれば、段階的な手術を行い徐々に根治を目指す病態も存在します。例えば、新生児期には総肺静脈還流異常症(TAPVD)、完全大血管転位症(TGA)、大動脈離断症(IAA)、大動脈縮窄症(CoA)などの疾患が手術を必要とします。
先天性心疾患の数と種類
日本における先天性心疾患の種類とその頻度について概説します。
我が国でもっとも多い先天性心疾患が心室中隔欠損
心室中隔欠損症は、日本で最も一般的な先天性心疾患です。これは、心臓の左心室と右心室を仕切る壁に穴が開いている状態を指します。先天性心疾患全体の約3分の1を占めており、心室中隔欠損症の約34.2%がこの種類にあたります。多くの場合、小さな穴は自然に塞がることがありますが、症状や穴の大きさによっては治療が必要になることもあります。
2番目に多いのが、心房中隔欠損症
心房中隔欠損症は、先天性心疾患の中で2番目に頻度が高い病態です。心室中隔欠損症の約3分の1程度の頻度で発生し、先天性心疾患全体の約19.4%を占めます。成人になってから発見される先天性心疾患の中では、この病態が最も一般的で、女性に多く発生することが知られています。
先天性心疾患の外科的治療
最重症の赤ちゃんは心疾患のためにおかあさんのおなかの中で生き続けられない場合や、生まれてすぐに手術をしないと助からないこともあります。一方先天性心疾患があっても血液の循環にはあまり影響がなく、一生手術の必要がない場合、あるいは成人期以降に症状が出現して病気がみつかり治療の対象となったりする場合もあります。
また、たとえ同じ病名の患者さんであっても、病気の重症度がいろいろで、治療の要否、治療の時期も違ってきます。様々な手術の術式がありますが、個々の患者さんの状態に応じて治療の必要性や治療の時期を的確に判断していく必要があります。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
先天性心疾患とは何ですか?
先天性心疾患は、生まれつきの心臓の異常で、新生児の約1%に発生します。心室中隔欠損症や心房中隔欠損症など、多くの種類があります。
先天性心疾患の原因は何ですか?
原因は遺伝的要因と環境要因が組み合わさることが多く、具体的には染色体異常や母体のウイルス感染などが挙げられます。
先天性心疾患の種類にはどのようなものがありますか?
主に非チアノーゼ性心疾患とチアノーゼ性心疾患の2種類に分けられ、それぞれ心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、ファロー四徴症などが含まれます。
先天性心疾患の診断方法は何ですか?
心臓超音波検査(エコー検査)が最も重要で、他に心臓カテーテル検査や胸部レントゲン、心電図などが用いられます。
先天性心疾患の治療法にはどのようなものがありますか?
病態や重症度によって異なり、軽度の場合は自然治癒することもありますが、多くは手術が必要で、特に重篤な症例では複数回の手術が必要になることもあります。
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心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)