株式会社増富

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虚血性心疾患

心臓腫瘍

その他心疾患

心臓腫瘍の概要

心臓腫瘍は、心臓の組織内に発生する腫瘍を指します。非常に稀な疾患であり、心臓手術全体の0.1%から0.3%程度にしか見られないと言われています。心臓腫瘍は、発生源によって大きく二つに分類されます。

  • 原発性腫瘍: 心臓組織自体から発生する腫瘍で、良性と悪性があります。
  • 続発性腫瘍 (転移性腫瘍): 体の他の部位に発生した悪性腫瘍が心臓に転移したものです。

心臓腫瘍の種類について

原発性心臓腫瘍

良性心臓腫瘍

良性心臓腫瘍は原発性のなかでも約70%を占めており、粘液腫、乳頭状線維弾性腫、横紋筋腫、線維腫、血管腫、脂肪腫、心外膜傍神経節腫、心臓嚢腫など、様々な種類があります。
特に多いのは「心室粘液腫」で、良性腫瘍の約50%、心臓腫瘍全体の30〜40%を占めるとされています。
心室粘液腫は心臓の中腔部に発生し、その他の種類の腫瘍も心室、心房、弁の近傍など、心臓の様々な部位に発生する可能性があります。
このように、良性原発性心臓腫瘍は決して多くはありません。しかし、適切な診断と治療を行えば、健康な生活を送ることができる疾患です。

悪性心臓腫瘍

心臓腫瘍のうち、約30%が悪性腫瘍に分類されます。
肉腫、中皮腫、リンパ腫などがあげられます。悪性腫瘍で最も多いのが「肉腫」です。
肉腫は、心臓を構成する結合組織、筋肉組織、脂肪組織などに発生するがんで、心臓肉腫と総称されます。
心臓肉腫の中で最も多いのは血管肉腫で、肉腫全体の約40%を占めると言われています。
血管肉腫は心臓の壁に発生しやすく、特に右心房や左心房に発生することが多いとされています。
心臓内の血流を妨げ、心臓の機能を低下させる可能性があります。
また、右心房に発生した場合、心臓を包む膜である心膜や、肺に転移する可能性も懸念されます。
悪性心臓腫瘍の予後は、一般的に良好とは言えません。しかし、早期発見と適切な治療、例えば外科手術、化学療法、放射線療法などを組み合わせることで、生存率の改善が期待できます。
悪性心臓腫瘍は、命に関わる重篤な病態を引き起こす可能性があります。そのため、早期発見と適切な治療が重要です。

転移性心臓腫瘍

転移性心臓腫瘍は、体の他の部位で発生した悪性腫瘍が心臓に転移した状態を指します。全悪性腫瘍の10~20%が心臓へ転移するといわれています。原発性に発生する心臓悪性腫瘍は稀ですが、最もよく心臓へ転移する腫瘍は、肺がん、乳がん、悪性黒色腫(皮膚がん)、食道がんなどで、特に転移しやすい部位は心外膜や心房です。

転移性心臓腫瘍は、進行がんの段階で発見されることが多く、急速に状態が悪化するため予後は厳しく重篤な状態を引き起こす可能性があります。

心臓腫瘍 発症の原因

心臓腫瘍は非常に稀な疾患であり発症の原因は完全には解明されていません。心臓腫瘍の発症原因は複雑ですが、一般的に以下の要素が関与していると考えられています。

遺伝的要因

特定の遺伝疾患や遺伝的素因が心臓腫瘍の発症に関与することがあるとされています。

環境的要因

特定の化学物質、放射線、ウイルスなどの外部の環境要因が心臓腫瘍のリスクを高める可能性があります。

心臓の病態

心臓疾患の罹患が特定の心臓腫瘍のリスクを高めることがあるといわれています。たとえば、心臓の炎症や感染症があった方が、特定の心臓腫瘍を発症するリスクが高いことが報告されています。

転移性腫瘍

心臓腫瘍の中で最も多いのが他の臓器からの転移性腫瘍です。この場合、発症の原因は他の臓器に発生した悪性腫瘍そのものに起因することが多いです。

心臓腫瘍の症状

心臓腫瘍の症状は、腫瘍の種類、大きさ、位置などによって異なります。以下は心臓腫瘍によって次のような症状が現れることがあります。

心臓の圧迫症状

腫瘍が大きくなると、心臓の構造を圧迫し、血液の流れを阻害し下記症状が起こることがあります。

・息切れ、腫れ、疲労感など

心臓の弁の障害

腫瘍が心臓の弁の近くに存在する場合、弁の正常な動作を妨げ下記症状が起こることがあります。

・呼吸困難、胸部の不快感、めまいなど

不整脈

心臓腫瘍は心拍数の異常など心臓リズムの障害により心房細動や心室細動が起こることがあります。

・動悸、胸部の不快感、失神、めまいなど

全身症状

腫瘍によって発生するサイトカインや化学物質の影響で全身的な症状も現れることがあります。
・発熱、体重減少

心臓腫瘍の診断

心エコー検査

心エコーは心臓腫瘍の診断に最も使用される検査です。心房腫瘍の描出には経食道心エコー検査が用いられ、心室腫瘍の描出では経胸壁心エコー検査を使用します。心臓の構造と血流を詳細に視覚化できるため、腫瘍の存在や位置、サイズを確認するのに有効です。

心臓CT・MRI検査

心臓CTや心臓MRIは、心臓腫瘍の詳細な構造を評価するのに有用です。腫瘍のタイプや周囲の構造との関係など、より高度な情報が必要な場合に使用されます。

心カテーテル検査

心臓腫瘍が冠動脈に影響を及ぼしている場合、冠動脈造影が行われることがあります。

血液検査

炎症所見(白血球上昇、CRP上昇)を来すことがあり、心臓腫瘍の種類によっては血液中の特定のマーカーが上昇することがあります。このため、血液検査は診断の補助として利用されることがあります。

組織検査

画像診断だけでは確定的な診断が困難な場合、組織検査(生検)が行われることがあります。腫瘍から採取した組織を顕微鏡で詳細に調べることで、良性か悪性の腫瘍のタイプを特定します。

心臓腫瘍の治療法

保存的治療

経過観察

小さな良性心臓腫瘍で、症状や合併症のリスクが低い場合、治療の代わりに定期的な診察と画像検査による観察が行われることがあります。腫瘍のサイズや位置の変化、新たな症状の出現などを迅速に察知し、必要に応じて治療方針が変更されることがあります。

薬物療法

心臓腫瘍による症状や合併症の管理に薬物療法が用いられることがあります。例として、水分貯留や不整脈の症状に対して利尿薬や抗不整脈薬を使用することがあります。

生活習慣の指導

心臓腫瘍による症状の進行を遅らせ、患者の生活の質を向上させる目的で、塩分の制限、適度な運動、ストレス管理などの生活習慣の改善の指導が行われることがあります。

対症療法

心臓腫瘍の対症療法は、病気の根本的な原因を治療するのではなく、患者の症状を緩和し、生活の質を改善することを目的としています。

心不全の管理

心臓腫瘍が心不全を引き起こす場合、利尿薬やACE阻害薬などの薬物が投与されることがあります。これらの薬物は、体内の余分な水分を排出し、心臓にかかる負担を減らします。

不整脈の管理

腫瘍が心臓の正常なリズムを乱す場合、抗不整脈薬が使用されることがあります。場合によっては、一時的なペースメーカーの挿入など、より侵襲的な治療が必要となることもあります。

疼痛の管理

心臓腫瘍は疼痛を引き起こすことがあります。この場合、非麻薬性鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬などの使用により適切な疼痛コントロールを図ることがあります。

血栓・塞栓症の予防

腫瘍周囲の血流異常が血栓を引き起こすリスクがある場合、血栓予防目的で抗凝固薬が投与されることがあります。

液体・電解質バランスの調整

心臓の機能が低下すると、体内の液体や電解質のバランスが乱れることがあります。このような場合、適切な薬物や点滴治療が行われることがあります。

心理的サポート

心臓腫瘍の診断や治療は、患者にとってストレスとなることが多いです。心理的サポートやカウンセリングが提供されることで、精神的な健康の維持と向上が図られます。

これらの対症療法は、症状のコントロールと患者の生活の質の向上を中心に行われます。心臓腫瘍によって引き起こされる症状や合併症の管理が重要です。心臓腫瘍の根本的な問題はこれらの治療では改善できないため、症状が進行した場合や生活の質が大幅に低下した場合には、腫瘍切除術や腫瘍除去術のような積極的な外科的治療が必要となることがあります。

心臓腫瘍の外科的治療(手術)

心臓腫瘍の根治術は手術による切除が原則です。腫瘍を小さくするような薬物は今のところ存在しません。また、手術は心臓の中の操作になるので簡単に切除はできません。通常は人工心肺という心臓と肺の代わりをする機械を使い、心臓を一時的に停止させ、心臓内に血液のない状態にしてから心臓を切開し、心臓の内部に癒着している腫瘍を切除することになります。

手技手順

具体的な手術方法は症例によって異なりますが、一般的な心臓腫瘍切除術は、以下のような手順で行われます。

①開胸

全身麻酔下にて、執刀医のDrが開胸を行います。皮膚→胸骨→心膜の順に切開し心臓を露出させます。

②体外循環開始

手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せ、全身の血流を確保します。心筋保護液という薬剤を心臓に流し、一時的に心臓の動きを停止させます。

③心臓腫瘍の切除

心臓を切り開き、腫瘍を切除します。弁の近位部に腫瘍があった場合などは弁置換手術などを行う場合もあります。

④心臓機能の回復

心臓を縫合し閉じていきます。心臓の再拍動の為のHot shot(温めた血液と心筋保護液の混合液)を流し、心臓を再拍動させて人工心肺を停止します。心臓の動きが自然に回復することを確認し、止血を行いながら閉胸していきます。

⑤閉胸

患者様の全身状態に注意しながら心膜→胸骨→皮膚の順に閉じて手術終了です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

心臓腫瘍とは何ですか?

心臓腫瘍は、心臓の組織内で発生する腫瘍を指し、非常に珍しい病気です。全心臓手術の約0.1%から0.3%の割合で確認されています。心臓腫瘍には、原発性(良性と悪性)と続発性(転移性)の2種類があります。

心臓腫瘍の主な種類にはどのようなものがありますか?

心臓腫瘍には主に3つのカテゴリーがあります。良性心臓腫瘍は約70%を占め、心室粘液腫が最も多いです。悪性心臓腫瘍は約30%で、肉腫が最も一般的です。転移性心臓腫瘍は他の部位で発生した悪性腫瘍が心臓に転移したものを指します。

心臓腫瘍の原因は何ですか?

心臓腫瘍の発症原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境的要因、心臓の病態などが関与すると考えられています。特に、特定の遺伝疾患や化学物質、放射線への曝露がリスクを高める可能性があります。

心臓腫瘍の診断方法にはどのようなものがありますか?

心臓腫瘍の診断には心エコー検査が最も一般的に使用され、心臓CT・MRI検査、心カテーテル検査、血液検査、そして組織検査(生検)が行われることがあります。これらの検査により、腫瘍の存在、位置、サイズ、およびタイプが確認されます。

心臓腫瘍の治療方法にはどのようなものがありますか?

心臓腫瘍の治療には、保存的治療(経過観察、薬物療法、生活習慣の指導など)、対症療法(心不全や不整脈の管理、疼痛の管理など)、および外科的治療(心臓腫瘍の切除)があります。治療方法は腫瘍の種類、大きさ、位置、および患者の全体的な健康状態に基づいて選択されます。

関連コラム

【参考文献】

・国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/rcc/about/heart/index.html

・小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/04_19_023/

心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

増田 将

株式会社増富 常務取締役

プロフィール

医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例