心房細動の概要
心房細動は、心臓の上室にある心房が十分な収縮をせず、けいれんするように細かく震えることで脈が不規則になる不整脈の状態です。このため動悸、息切れあるいは倦怠感などの自覚症状をきたします。この不規則な収縮により、心臓は効率的に血液を全身に送ることができなくなります。
心房細動の原因として、加齢、心臓疾患、高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、甲状腺疾患などが挙げられます。これらの要因により、心房内の電気信号の伝達が乱れることによって様々な症状や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。心房細動自体は危険な不整脈ではありません。適切な診断と治療によって、症状の軽減と脳梗塞などの合併症を未然に防ぐことができます。心臓の健康については定期的な検診と必要に応じた治療が重要です。
心房細動の種類
心房細動は、発作の持続時間によって、発作性、持続性、慢性の3つに分けられます。また、頻脈性心房細動と徐脈性心房細動にも分けられます。
発作性心房細動
7日以内に自然に停止する心房細動
持続性心房細動
7日以上持続する心房細動
慢性心房細動
心房細動の発作が長期にわたって続き、薬物療法などで治療しても改善がみられない
頻脈性心房細動
頻脈性心房細動は1分間の脈拍が100回/分以上の心房細動をいいます。心房内の電気信号が乱れることで、心房が小刻みに震え脈が速くなる頻脈になります。
徐脈性心房細動
徐脈性心房細動は1分間の脈拍が50回/分未満の心房細動をいいます。心房細動は頻脈になることが多いですが、心房の脈をうまく房室結節へ伝達することができず、結果的に心室の脈が遅くなってしまい、脈が遅くなる徐脈になります。
心房細動 発症の原因
正常な心臓は、心臓内で発生する電気信号によって規則正しい収縮と拡張を繰り返しています。不整脈の一種の心房細動の場合は複数の異常な電気の渦が心房内を高速で旋回している状態です。以下は心房細動の主な原因です。
加齢
加齢は心房細動の最も一般的なリスクファクターの一つです。年齢とともに心臓の筋肉や組織の変性が進行し、心房の電気的な活動が不安定になることが考えられます。
心臓疾患
心筋症、弁膜症、先天性心疾患、心筋梗塞などの心臓の疾患は、心房細動のリスクを増加させます。これらの疾患は心臓の構造や機能に変化をもたらし、左房への機械的負荷による不整脈を引き起こしやすくなります。
高血圧
高血圧は、心臓に過度な負荷をかけ、左室肥大や筋肉の変性を引き起こす可能性があります。
糖尿病
糖尿病は、血管の障害や神経の変性を引き起こし、これが心臓の電気的な活動に影響を及ぼすことがあります。
呼吸器疾患
COPD(慢性閉塞性肺疾患)や睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器疾患は、心臓に負荷をかけることで心房細動のリスクを高めます。
甲状腺機能亢進症
バセドウ病などの甲状腺ホルモンの過剰分泌は、心臓のリズムを乱す可能性があります。
その他
アルコールの過度な摂取、過度なカフェイン摂取、ストレス、不規則な生活習慣なども心房細動のリスクを増加させる要因となります。
心房細動の発症の原因は多岐にわたり、生活習慣や基礎疾患、加齢などさまざまな要因が絡み合っています。これらの原因を理解し、適切な生活習慣の改善や疾患の管理を行うことで、心房細動のリスクを低減することが可能です。
心房細動の症状
心房細動は、不整脈の一つとして知られており、心房細動の症状は、患者様の体質や心臓の状態、基礎疾患の有無などによって異なります。症状が軽微であっても、心房細動は脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。以下は心房細動の主な症状です。
動悸
心房細動で最も多い症状の一つが動悸です。心臓が速く、または不規則に打つように感じることがあります。
息切れ、疲れやすさ
心臓が効率的に血液を全身に送れないため、軽い運動や日常の活動でも息切れを感じることがあります。また、心臓の機能が低下することで、体全体のエネルギー供給が不足し、疲れやすくなることがあります。
めまいや立ちくらみ、失神
血流不足により、めまいや立ちくらみを感じることがあり、重度の心房細動や他の心臓疾患を併発している場合、失神することも考えられます。
無症状
心房細動の特徴として、症状を感じない場合も多くあり、不整脈が軽度である場合や体が不整脈に慣れ適応していることが考えられます。
心房細動の診断
正常な心臓のリズムは心房には60~100/分の頻度で電気が流れますが、心房細動は400~500/分の高頻度 で電気が流れるため、心房は充分に収縮することができず、震えている状態になります。以下は、心房細 動の検査と診断方法です。
心電図検査
心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です、心房細動によって心房の不規則な電気活動の波形が心電図で確認されるため確定診断に有用です。
胸部X線検査
胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。心房細動の進行によって、心臓の拡大や肺血流の変化 などの心不全像の所見が見られることがあります。
心エコー検査
心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。心エコー検査は、心臓の収縮力、弁の動 き、筋肉の厚さや動き、心房、心室の大きさ等が得られるので不整脈診断に有用な検査です。また、心臓のすぐ後ろにある食道側から心臓を観察できる経食 道心エコー検査は、心房細動によって心臓内で形成される血栓などの異常構造物がないか調べる際に有用な検査です。
血液検査
血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。甲状腺ホルモンに関するTSH/T3/T4や電解質 異常がないか心房細動の発症原因を精査するのに有用です。また、心室に負担があると分泌されるBNP(脳性ナ トリウム利尿ペプチド)というホルモンは心不全(心機能の低下)の病態を知るのに有用です。BNPの血中濃度を測定し、心機能低下の程度を把握します。
心臓CT検査
心臓CT検査Iは、より詳細な心臓の画像を提供する検査です。心房細動のカテーテルアブレーション 治療を行う前に、治療部位である肺静脈の形や大きさを調べるのに有用です。
心臓電気生理検査(EPS検査)
心臓電気生理検査(EPS検査)は、細い管の電極カテーテルを足や首の動脈や静脈からX線透視をしながら、心臓の中に入れ、心臓の中から心電図を記録し、心臓自体に電気刺激を与えることで不整脈を誘発する検査です。不整脈の診断やカテーテルアブレーション治療の際に有効な検査です。
24時間ホルター心電図検査
24時間ホルター心電図検査では携帯用の小型心電計を用いて、24時間心電図を記録します。発作的に心房細動が起こる場合や、症状と心電図の関連を詳しく調べるために行います。
心房細動の保存的治療・対症療法
心房細動の主な治療方法として、薬物療法、カテーテルアブレーション治療、外科的治療(メイズ手術)の3種類があります。心房細動の保存的治療の目的は、不整脈による症状の改善や再発の予防、脳梗塞などの合併症のリスクを低減することです。心房細動の対症療法は、症状の緩和や発作の頻度を減少させることを目的としており、発作が起きた際の適切な対応や日常生活での工夫は、生活の質を向上させる上で非常に重要です。
薬物療法
リズムコントロール
心房細動を正常な心拍に戻すために抗不整脈薬などを使用して心臓に直接作用させ発作を止めたり、発作を予防することがあります。
レートコントロール
心房細動の心拍数を適切な範囲に保つために、ジギタリス製剤、β遮断薬やカルシウム拮抗薬などを使用することがあります。レートコントロールにより心拍数が正常に近づくので、動悸や息切れなどの自覚症状が軽減します。
抗凝固薬
心房細動にともない心臓内に血栓(血の塊)が形成され、血栓塞栓症(脳梗塞)を引き起こす危険性もあります。心房細動の合併症である脳梗塞のリスクを低減するためにワーファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)などを使用することがあります。
カテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーション治療は、心房細動の根治術として行われている治療方法です。心房細動の原因となっている異常な電気信号をカテーテルを用いて心臓の内部から焼き切る治療法です。心房細動において、カテーテルアブレーションは約70%に有効と言われています。
電気的除細動治療
電気的除細動治療は、心臓に電気的な刺激を与えることで心房の震えそのものを止め、不整脈を正常な状態に戻す治療方法です。薬物療法での効果が乏しい場合や心房細動に伴う心機能低下により危険な状態にある際に行われることがあります。慢性化した心房細動に対して有効な治療方法です。
呼吸困難の管理
呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。
生活習慣の改善
心房細動の発作が起きた際は、無理をせず十分な休息をとることが重要です。ストレスは心房細動の発作を引き起こすトリガーとなることがあるため、リラクゼーションや深呼吸、瞑想などでストレスを軽減することが推奨されます。カフェインやアルコールなどこれらの摂取が心房細動の発作を誘発することがあるため、制限することが望ましいです。
発作時の対応(頻脈による心拍数を下げる方法)
バルサルバ法
深呼吸をしてから息をこらえ、腹圧を上げることで、一時的に心拍数を下げる方法です。
冷水を飲む
冷たい水をゆっくりと飲むことで、迷走神経を刺激し、心拍数を一時的に下げることができる場合があります。
心房細動の外科的治療(手術について)
心房細動の外科的治療は、薬物療法やカテーテルアブレーション治療により改善が見られなかった場合や他の心臓手術と併せて治療する場合に行われることがあります。外科的治療によって、心房細動による不整脈や心機能の改善、心原性塞栓症(脳梗塞)を予防することが期待されます。以下は心房細動の主な外科的治療方法です。
ペースメーカ植え込み術
慢性心房細動では,症状がなければペースメーカ植込み適応はありません。しかし、徐脈による症状が生じた場合には,ペースメーカ植込み適応となります。
- 切開:鎖骨の下方を5cmほど切り開き、ペースメーカー本体を植え込むための隙間(ポケット)を作成します。
- リード留置:ポケットの近くを走行する腋窩【えきか】静脈あるいは鎖骨下静脈に中空の針を刺し(「穿刺【せんし】」といいます)、ペースメーカーリードを静脈内に挿入し、右心房、右心室の心筋に留置します。
- 本体接続:リードと本体を固定し、本体をポケット内に収納して、切り開いた部分を縫い合わせて終了です。
メイズ手術 (Maze procedure)
この手術は、心臓の心房部分に小さな切れ目や焼灼を施し、異常な電気信号の経路を遮断することで、心房細動を治療する方法です。切れ目や焼灼部分は、瘢痕組織となり、異常な電気信号の伝播を阻止します。メイズ手術は、開胸手術として行われることが多いですが、最近では、より小さな切開を用いる低侵襲手術も行われるようになってきました。
左心耳閉鎖術
心房細動患者様の心房内血栓のおよそ90%は、左心房の中の左心耳に形成されることが分かっています。左心耳閉鎖術は、左心耳を閉鎖し、血栓の形成を防ぐことを目的として行われる手術方法です。血栓が脳に流れることで脳梗塞を引き起こすリスクを低減することが期待されます。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
心房細動とはどのような状態ですか?
心房細動は、心臓の上室である心房が不規則に収縮し、脈が乱れる不整脈の一種です。これにより動悸、息切れ、倦怠感などの症状が起こる可能性があります。
心房細動の原因にはどのようなものがありますか?
心房細動の原因には、加齢、心臓疾患、高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症などがあります。これらは心臓の電気的な活動に影響を与え、不整脈を引き起こします。
心房細動の診断方法は何ですか?
心房細動の診断には、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、血液検査、心臓CT検査などが用いられます。これらの検査により、心房の不規則な活動や心臓の状態を評価することができます。
心房細動の治療方法にはどのようなものがありますか?
心房細動の治療方法には、薬物療法、カテーテルアブレーション治療、外科的治療(メイズ手術やペースメーカー植え込み術など)があります。これらの治療は、症状の改善や脳梗塞などの合併症の予防を目指します。
心房細動の合併症としては何が考えられますか?
心房細動の合併症としては、脳梗塞が最も重要です。不規則な心房の動きにより血栓が形成され、これが脳に運ばれることで脳梗塞を引き起こすリスクがあります。そのため、予防のための抗凝固薬の使用が重要となります。
関連コラム
【参考文献】
・よくわかる!心房細動ナビ
https://www.shinbousaidou-navi.com/・心房細動 | 日本不整脈外科研究会https://plaza.umin.ac.jp/~arrhythm/arrhythmia/atrium/index.html
・国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/44.html
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)