ペースメーカーの概要
ペースメーカーは、電池と電気回路を組み合わせた発振器と、接続した細いリード線で構成された医療機器です。電線の先を心臓に取り付けて発振器と電線を接続することにより、一定のリズムで電気刺激が発振器から心臓へと伝わり、心臓が拍動します。
脈拍が遅い疾患を持つ方に使用されますが、発振器は20グラム程度の大きさで手のひらサイズです。ペースメーカーの電池は5~10年が寿命であるため、病気や種類によるものの寿命前に交換が必要となります。
ペースメーカーが適応疾患
- 房室ブロック:心房-心室間の伝導障害による徐脈
- 洞機能不全症候群(SSS:sick sinus syndrome):洞結節の機能障害による徐脈
- 徐脈性心房細動:心房細動+徐脈
が挙げられます。いずれも心臓内の刺激伝導に異常をきたす徐脈(脈拍が遅い疾患)です。徐脈の中にもⅠ度、Ⅱ度などの種類があり、治療が必要ない場合もあります。そのため、徐脈であればすべてが適応になるということではありません。自覚症状があまりなく、リスクが低い患者さんは適応外になります。
ペースメーカー植え込み術の手順
初めてペースメーカーを埋め込む場合
- レントゲンの透視下で、右または左の鎖骨のやや下を局所麻酔する
- 皮膚と肋骨の間に、ポケットと呼ばれるジェネレータ本体の収納スペースを確保する
- 収納スペースから鎖骨下静脈を針で刺してリードを入れていき、心臓の中まで入れる
- 条件の良い場所を探して固定し、最後にリードとジェネレータを接続する
- 正常に動作することを確認し、ポケットにジェネレータを入れて皮膚を閉じ、手術終了
手術時間は約1〜2時間程度で、局所麻酔で行われます。術後、問題がなければ約10日〜14日程度で退院できます。
ペースメーカー植え込み術(電池交換など)の手順
リードに異常がなければ、皮膚を切開してリードとジェネレータの接続を外して新しいジェネレータを接続して皮膚を縫合し、手術終了となります。
約1時間程度で手術が終わります。リードとジェネレータの接続は特殊なネジによる固定ですから、専用の工具を使えば簡単に付け替えることができます。術後はすぐに歩けるようになり、日常生活も全く制限する必要はありません。
ペースメーカー手術は、ペースメーカーの大きさやリードの太さなどさまざまな改良が行われ、苦痛や危険性は大幅に減少してきました。しかし、手術である以上、リスクを完全にゼロにすることはできません。ペースメーカー手術後に考えられる合併症には、以下のようなものがあります。
- 気胸(3~5%)
- リードに寄る穿孔、心タンポナーゼ(0~0.3%)
- 感染・出血
- 縫合不全
- リード移動
- 造影剤の使用による合併症
- その他
3%〜5%程度に起こる気胸とは、肺から漏れた空気が肺の周囲から肺を圧迫し、縮小してしまう現象のことです。これは、リードを鎖骨下静脈に通す時に誤って肺を刺してしまうことで起こります。この場合、しばらく胸に管を入れておき、肺の外側に溜まった空気を抜く必要がある場合があります。
また、リードは心臓の壁に押しつけて固定するのですが、まれに心臓の壁を突き抜けてしまうこともあります。リードが心臓を突き破ってしまうと、心臓を取り囲む心嚢という袋に血液が漏れ、袋に血液が溜まってしまいます。すると、外から心臓が圧迫されて十分に血液が送り出せない状態になることがあります。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
ペースメーカーとは何ですか?
ペースメーカーは、徐脈などの心拍数の異常を治療するために使用される医療機器です。心臓に一定のリズムで電気刺激を送り、正常な心拍を維持するために用いられます。
ペースメーカーが使用される主な疾患は何ですか?
ペースメーカーは主に、房室ブロック、洞機能不全症候群(SSS)、徐脈性心房細動などの徐脈を伴う疾患に使用されます。
ペースメーカーの植え込み術の手順はどのようなものですか?
ペースメーカー植え込み術は、局所麻酔の下で行われ、鎖骨下にポケットを作り、そこからリードを心臓内に通し、ジェネレータを接続します。手術時間は約1~2時間です。
ペースメーカーの電池交換手術はどのように行われますか?
ペースメーカー植え込み術後に起こり得る合併症には、気胸、リードによる心臓の穿孔、感染、出血、リード移動などがあります。これらは比較的まれですが、注意が必要です。
ペースメーカー植え込み術に伴う合併症は何がありますか?
ペースメーカー植え込み術後に起こり得る合併症には、気胸、リードによる心臓の穿孔、感染、出血、リード移動などがあります。これらは比較的まれですが、注意が必要です。
関連コラム
心疾患情報執筆者
増田 将
株式会社増富 常務取締役
プロフィール
医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例