不整脈の種類
不整脈は大きく分けて頻脈、徐脈、期外収縮の3種類あり、発作時の脈の速さに応じて徐脈、頻脈に分類することもあれば、不整脈の出現部位に応じて上室性、心室性に分類されることもあります。そのなかでも3つの特有の不整脈について触れていきます。
WPW症候群
WPW症候群の概要
WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は上室性頻脈性不整脈に分類され、症例を報告した「Wolff-Parkinson-White」3人の医師たちの名前に由来しています。上室性頻脈性不整脈とは、心臓のなかでも心室の上室にある心房で起こり、頻脈となる不整脈をいいます。
定義
WPW症候群は、心房と心室の間の房室結節以外にケント束と呼ばれる心房と心室の間に電気刺激を伝える副伝導路があることで発生する先天性心疾患です。正常な場合、心電信号は心房から房室結節を経由して心室に伝わりますが、この追加経路により、心臓の電気信号が通常の伝導系を迂回し、心房と心室間で異常な早い電気的活動により頻脈を引き起こすことがあります。この異常な伝導は、心電図上特有のデルタ波という波形で表れます。
発生率と疫学
WPW症候群は、全人口の約0.1%から0.3%で見られ、男女ともに発生する可能性がありますが、男性での発生がやや多い傾向にあります。年齢、人種、地域による発生率の差は少ないですが、家族歴のある個体では発生率が高くなることが示されています。
原因とリスク因子
WPW症候群の原因については遺伝的要因が関与することが示唆されています。特定の遺伝子変異が関与している可能性があり、家族内での複数の症例報告があります。リスク因子としては、家族歴が最も重要であり、その他には特定の先天性心疾患を持つ人々もWPW症候群を発症するリスクが高まることが知られています。
WPW症候群の症状と合併症
典型的な症状
WPW症候群の典型的な症状には、頻脈、動悸、息切れ、胸痛、めまい、または失神がみられます。WPW症候群の症状は多くの場合、若年成人期に最初の症状が現れます。症状の進行は個人差が大きく、一部の患者では時間と共に症状が悪化することもありますが、生涯を通じて症状がほとんどまたは全く現れないこともあります。
合併症
WPW症候群は、様々な合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症は、症状の重さや頻度、および個人の健康状態に依存します。
心房細動
心房細動はWPW症候群における危険な合併症であり、心房が非常に高速で不規則に収縮する状態です。ケント束によって心室に異常な速さで信号が伝達されることが原因であり、拍動が速くなって心臓の機能が低下するだけでなく、拍動があまりに速くなると致死性不整脈である心室細動へと進行することがあります。
心不全
長期にわたる不整脈は、心機能の低下によって心不全を引き起こすことがあります。心不全では、心臓が体の需要に応じて十分な血液をポンプできなくなります。
WPW症候群の治療
WPW症候群の治療としては、Ca拮抗薬やβ遮断薬、抗不整脈などの薬物療法、電気ショック療法、そしてカテーテルアブレーション治療などが状態に合わせて行われます。特に根治療法としてのカテーテルアブレーションによる効果は高く、WPW症候群による異常経路を効果的に治療することができます。
QT延長症候群
QT延長症候群の概要
QT時間とは、QRS波の始まりからT波の終わりまでの時間のことを指し、心室筋で活動電位が生じている時の長さのことをいいます。QT時間の正常値は、0.36秒〜0.44秒で、延長している場合はQT延長症候群が疑われます。QT延長症候群は、1957年に初めて報告されており、心臓突然死の原因である致死性不整脈移行のリスクを高める不整脈です。
定義
QT延長症候群は、心電図上でQT間隔が延長している状態を指します。正常な心臓では、心室の収縮と弛緩は正確に調節された電気的活動によって制御されます。QT間隔の延長は、心室の再分極が遅れることを示しており、これが不整脈を引き起こす原因となります。この病態は、心室性不整脈のリスクが高まり、心電図上のQT時間延長によってトルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes:TdP)というQRS波が上下に捻じれるように変わる特殊な心室頻拍様の危険な心電図波形の不整脈を引き起こす可能性があります。QT間隔は、心室が収縮してから再びリラックスするまでの時間を示し、この期間が異常に長いと再分極の遅れが不均一に発生し、トルサード・ド・ポワンツなどの生命を脅かす不整脈出現のリスクを高めます。
発生率と疫学
QT延長症候群は、先天性と後天性の2種類に大別されます。先天性QT延長症候群は比較的稀で、1万人に1人から2人の割合で発生し男女差はありません。後天性QT延長症候群はより一般的であり、特定の薬剤、電解質の不均衡、特定の医療状態などによって引き起こされます。疫学的には、女性が男性よりもQT延長のリスクが高いとされています。
原因とリスク因子
QT延長症候群の原因は多岐にわたります。先天性の場合、遺伝子異常を認めるのは全体の75%で、心臓のイオンチャネル機能に異常をもたらすことでQT間隔が延長します。遺伝形式の違いによって、常染色体優性遺伝を示すロマノ・ワード症候群と、常染色体劣性遺伝を示すジャーベル・ランゲニールセン症候群に分けられます。
後天性の原因としては、以下のものがあります。
- 薬剤:特定の抗精神病薬、抗不整脈薬、抗生物質、抗うつ薬など
- 電解質の不均衡:低カリウム血症、低マグネシウム血症
- 病因:心筋梗塞、先天性心疾患、HIV、甲状腺機能異常など
リスク因子としては、家族歴、女性、高齢、特定の医薬品や電解質不均衡の存在が挙げられます。
QT延長症候群の症状と合併症
典型的な症状と合併症
QT延長症候群の患者は、特定の症状がない場合もありますが、以下のような症状や合併症が報告されています。
- 失神:不整脈による心臓の効率的なポンプ機能の一時的な喪失が原因で発生します。
- めまい:脳への血流が一時的に低下することで生じる場合があります。
- トルサード・ド・ポアンツ(TdP):この不整脈は、QT延長症候群患者に特有の不整脈で、心臓のリズムが極めて不規則になり、効果的な血液のポンプができなくなることがあります。
- 心室細動:TdPが進行すると心室細動に進展することがあり、これは突然死に直結する生命を脅かす状態です。
- 心停止:最も重大な症状の一つで、突然の意識喪失と共に生命を脅かす可能性があります。
- 突然死:心停止に伴い
QT延長症候群の症状の発現年齢と進行
先天性QT延長症候群の場合、症状は幼少期や思春期に初めて発現することが多いです。しかし、適切な診断と治療が行われない場合、成人期にも症状が現れることがあります。症状の進行は、個々のリスク因子、基礎となる疾患、及び生活習慣に大きく依存します。
QT延長症候群の治療
急性期におけるQT延長症候群では、QT時間が延長している誘因を取り除く治療を行うことが最も重要です。原因となっている薬剤の中止や電解質の補正、QT延長に伴う徐脈改善のための心拍数を増やす薬剤や一時的ペースメーカー留置などの治療が行われます。また、トルサード・ド・ポアンツ出現に伴う重症致死性不整脈による突然死を予防するためには、植込み型除細動器(ICD)が必要となります。
ブルガダ症候群
ブルガダ症候群の概要
ブルガダ症候群は、1992年にブルガダ兄弟らによって報告された不整脈であり、12誘導心電図でST上昇などの特徴的な心電図波形がみられる症候群です。失神および突然死のリスクの増大をもたらす心臓の突然死の原因となる重篤な不整脈です。
定義
ブルガダ症候群は、心臓の電気的活動に異常をもたらし心室細動に移行した後に突然死を引き起こす可能性がある遺伝性の疾患です。心室上部の電気的不均一性が増加し、それによって心室細動や心停止のリスクが高まります。12誘導心電図の胸部V1-V3誘導でCoved型、Saddle Back型でST上昇などの特有の心電図変化を示します。
発生率と疫学
ブルガダ症候群の正確な発生率は地域によって異なりますが、全世界で約1/2,000から1/5,000の人に影響を与えると推定されています。男性の発症率が女性よりも高く、特に東南アジアや日本などのアジア地域での発生が多いことが報告されています。
原因とリスク因子
ブルガダ症候群の原因は、心臓の電気活動を制御する遺伝子の変異によるものが多くを占めます。特に、SCN5A遺伝子の変異が最も一般的に関連しており、約20%の方に心臓ナトリウムチャネルの遺伝子異常があります。そのほかに別の複数の遺伝子異常も報告されていますが、それらが検出される頻度はさらに低く、ブルガダ症候群の患者の男女比は10:1であることから、男性ホルモンとの関連も指摘されています。リスク因子には、家族歴、男性、特定の薬物やアルコールの摂取、電解質不均衡などがあります。
ブルガダ症候群の症状と合併症
典型的な症状と合併症
ブルガダ症候群は進行性の疾患ではありませんが、症状は多様で多くの場合無症状であり、症状の重さや頻度は時間とともに変化することがあります。以下のような症状や合併症が見られることがあります。
- 心室性頻拍:心臓が異常に速く打つ状態で、突然の意識喪失や心停止につながることがあります。
- 心室細動:心室が非常に速く不規則に収縮する状態で、処置されない場合は死に至ります。
- 失神:心臓の異常なリズムによる血流不足が原因で起こります。
- 突然死:不規則な心拍による突然の死亡は、ブルガダ症候群の最も重大な合併症です。最も重大な症状で、特に症状がない若者や健康な成人で突然発生することがあります。
ブルガタ症候群の治療
ブルガダ症候群の治療の目的は、致死性不整脈(心室頻拍、心室細動)の抑制と突然死の予防です。
ブルガダ症候群に伴う致死性不整脈による突然死を予防するための唯一の治療法は、植込み型除細動器(ICD)による発作時の電気ショックのみであり、突然死のリスクが高いと判断された場合には、突然死を予防するために推奨されます。そのために、失神の既往や突然死の家族歴、心停止後の蘇生例などを聴取し、自然停止する心室細動・多型性心室頻拍について確認を行います。突然死を予防できる薬剤はありませんが、不整脈発作の回数を減らす抑制目的でアミオダロンやキニジンなどの抗不整脈薬が処方されることがあります。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
WPW症候群とは何ですか?
WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群は、心房と心室の間に通常とは異なる電気的伝導路(ケント束)が存在し、異常な早さで心臓の電気信号が伝わることで発生する先天性心疾患です。この結果、頻脈を引き起こすことがあります。
QT延長症候群の原因は何ですか?
QT延長症候群は、心電図上でのQT間隔の延長により特徴付けられ、心室の再分極が遅れることが原因です。先天性の場合、主に遺伝的要因により心臓のイオンチャネル機能に異常が生じ、QT間隔が延長します。後天性の場合は、特定の薬剤や電解質の不均衡などが原因となります。
ブルガダ症候群とはどのような状態ですか?
ブルガダ症候群は、心臓の電気的活動に異常をもたらし、12誘導心電図でST上昇などの特徴的な波形を示す遺伝性の疾患です。心室細動に進行しやすく、失神や突然死のリスクが高まります。
WPW症候群の治療方法にはどのようなものがありますか?
WPW症候群の治療方法には、薬物療法、電気ショック療法、そして最も効果的な根治療法であるカテーテルアブレーションがあります。カテーテルアブレーションでは、異常な電気信号の経路を焼灼し、正常な心臓のリズムを回復させます。
QT延長症候群の治療における最も重要なポイントは何ですか?
QT延長症候群の治療において最も重要なのは、QT時間の延長を引き起こす原因を特定し、それを除去することです。電解質の不均衡を是正したり、QT延長を引き起こす薬剤の使用を中止することが含まれます。重症の場合は、植込み型除細動器(ICD)の使用が必要になることもあります。
ブルガダ症候群の発生率はどのくらいですか?
ブルガダ症候群の正確な発生率は地域差がありますが、全世界で約1/2,000から1/5,000の人に影響を与えると推定されています。特に男性に多く、東南アジアや日本などのアジア地域での発生が多いことが報告されています。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/12/JCS2017_aonuma_h.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf・一般社団法人 日本循環器学会
不整脈薬物治療ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf【株式会社増富の関連コラム】
・不整脈とは
・致死性不整脈
・カテーテルアブレーション
・心疾患と心肺蘇生法(CPR)
心疾患情報執筆者
増田 将
株式会社増富 常務取締役
プロフィール
医療現場支援歴:10年
《主な業務歴》
・医療現場支援歴:10年
・循環器内科カテーテル治療支援:3,000症例
・心臓血管外科弁膜症手術支援 :700症例
・ステントグラフト内挿術支援 :600症例