株式会社増富

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大動脈弁輪拡張症

心臓弁膜症

大動脈弁輪拡張症の概要

大動脈弁輪拡張症(AAE)は、心臓の大動脈弁の基部が正常よりも拡大する病態を指します。大動脈根部の拡張、大動脈弁の機能不全、さらには心臓の出力機能に重大な影響を及ぼす可能性があり、特に無症状で進行することがあるため、確定診断が遅れるケースが少なくありません。

大動脈弁の構造について

大動脈弁の構造は、主に以下の3つの部分から成り立っています。

弁尖(べんせん)

大動脈弁は3つの弁尖からなります。これらの弁尖は、左心室が収縮して血液を送り出す際に開き、左心室が弛緩して血液を受け入れる際に閉じます。閉鎖不全症の場合、大動脈弁尖の変性などにより大動脈弁が閉じなくなり、弁の開口部から血液の逆流が生じることがあります。

弁輪(べんりん)

大動脈弁の外周を支えるリング状の組織です。径が広がり弁輪が拡張すると、弁尖がきちんと閉じなくなる事があります。

大動脈弁輪拡張症 発症の原因

大動脈弁輪拡張症の主な原因は、先天的な要因や組織の弱さの関与が多いですが、高血圧や動脈硬化などの病態も寄与することが知られています。特にマルファン症候群などの遺伝性疾患は、結合組織の異常によりこの症状を引き起こすリスクが高まります。また、加齢に伴う自然な変化や、心臓に負担をかけるライフスタイルも、病状の進行に寄与する可能性があります。

遺伝的要因や先天的異常

大動脈弁輪拡張症の発症には、遺伝的要因が大きく関与しています。特に、マルファン症候群やローイズ・ディーツ症候群などの遺伝性疾患は、結合組織の構造や機能の異常を引き起こし、大動脈壁の強度と弾力性が低下し大動脈が拡張しやすくなります。また、バイカスピッド大動脈弁などの先天的異常も、弁の異常な構造が原因で大動脈根部に過度のストレスがかかり、時間とともに拡張を引き起こす可能性があります。

高血圧や動脈硬化

高血圧は、大動脈壁に持続的な圧力を加え、その結果、壁の微細な損傷や弱点が生じます。これが長期にわたって続くと、大動脈の拡張やさらなる損傷を引き起こす可能性があります。動脈硬化も同様に、動脈壁の硬化や厚みの増加を引き起こし、大動脈の柔軟性を損ない、拡張を促進します。

炎症や感染症

大動脈炎や伝染性心内膜炎などの炎症性疾患や感染症は、大動脈壁の炎症を引き起こし、その結果、組織の破壊や壁の弱体化が生じます。これは、急性または慢性の状況で発生し得る重要な因子であり、特に治療が遅れると、大動脈の拡張や破裂のリスクが高まります。

加齢に伴う変化

加齢によって、体の組織は自然に弱くなり、損傷しやすくなります。大動脈も例外ではなく、コラーゲンの減少やエラスチンの劣化など組織の構造的な変化が生じ、大動脈の弾力性が失われることで拡張しやすくなります。

大動脈弁輪拡張症の症状

大動脈弁輪拡張症によって心臓から全身への血流が阻害されるため、様々な症状を引き起こす可能性があります。これらの症状は、狭窄の程度、患者の年齢、同時に存在する他の健康問題などによって異なります。大動脈弁輪拡張症の初期の段階では症状が現れないことが多く、大動脈閉鎖不全症の病状が進行すると次のような心不全症状が現れることがあります。

  • 呼吸困難(特に労作時呼吸困難)
  • 疲労感
  • 動悸
  • 失神
  • 胸痛
  • 心房細動
  • 手足のむくみ

重度の閉鎖不全または急速な進行を示す場合、このような心不全症状が悪化しさらに重篤な症状が現れることもあります。左心房の負担が増えることで不整脈(心房細動)が起きやすくなり、心房細動にともない心臓内に血栓(血の塊)が形成され、血栓塞栓症(脳梗塞)を引き起こす危険性もあります。

大動脈弁輪拡張症は、日常生活の中で漠然と感じるものが多いため、自覚症状が少ないことがあります。しかし、これらの症状が進行すると、心臓への負担が増大し重篤な健康問題へとつながる可能性があります。

大動脈弁輪拡張症の診断

聴診

医師は胸部を聴診することで心音を聞き取ることができます。大動脈弁閉鎖不全症では、血流障害による特徴的な雑音(拡張期雑音)が聴取されることがあります。

心電図検査

心電図は心臓の電気的な活動を記録する検査です、大動脈弁閉鎖不全症では、左室に負荷が加わり拡張し、左心房からの血液も入りにくくなるため左房負荷による特徴的な心電図の波形が現れることがあります。

胸部X線検査

胸部X線検査は、心臓や肺の画像を提供する検査です。大動脈弁閉鎖不全症では、心臓の拡大や肺血流の変化が見られることがあります。

心エコー検査

心エコー検査は、心臓の詳細な画像を提供する非侵襲的な検査です。心臓の大動脈弁の構造や機能、血流などが確認されます。弁膜症の重症度の判定は主に心エコー検査にて行います。

血液検査

血液検査は、採血を行い血液中の血球成分を測定する検査です。心室に負担があると分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンは心不全(心機能の低下)の病態を知るのに有用です。BNPの血中濃度を測定し、心機能低下の程度を把握します。

心カテーテル検査

心臓カテーテル検査は、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、直接心臓内部の圧力や血液の流れを測定する検査です。大動脈造影で左室への造影度逆流を見ることで重症度を判定します。手術前の評価に行われることがあります。

心臓MRI検査

心臓MRIは、より詳細な心臓の画像を提供する検査で大動脈弁の形態や機能、血流の状態を評価するのに役立ちます。大動脈弁の詳細な評価が必要な場合に行われます。

大動脈弁輪拡張症の保存的治療・対症療法

大動脈弁輪拡張症に対する治療は、病態の重篤さ、患者の健康状態、および生活の質に基づいて検討されます。病状が急速に進行している場合、外科的介入が推奨されることがあります。

大動脈弁輪拡張症の治療は、病態の種類、症状の重度、および患者の全般的な健康状態に基づいて個別に適応されます。保存的治療は症状の管理と病状の進行の遅延を目的としており、対症療法は病気の根本的な原因を治療するのではなく、患者の症状を緩和し生活の質を改善することを目的としています。

経過観察

軽度または初期で症状が軽く、病態が安定している場合には、経過観察が選択されることがあります。定期的な受診と検査を通じて病態の進行を把握し、適切なタイミングで治療を検討します。

薬物療法

心臓の負担を軽減するために、利尿剤(利尿作用を持つ薬)、心臓の収縮を改善する薬(降圧薬)などが使用される場合があります。逆流が高度でも心機能が保持されている場合は血管拡張薬の内服で経過観察する場合もあります。これらの薬物は 症状の改善や心機能の安定化に役立ちます。

心不全の管理

心不全の症状を緩和するために、利尿剤や降圧薬などが使用されます。また、食事や運動の制限、塩分制限も行われることがあります。

不整脈の管理

心房細動などの不整脈がある場合、薬物療法やカテーテルアブレーション(不整脈を治療する方法の一つ)が行われることがあります。

呼吸困難の管理

呼吸困難がある場合、酸素療法が行われることがあります。これにより、患者様の酸素飽和度を改善し、呼吸困難の症状を軽減します。

生活習慣の改善

喫煙は心臓に追加のストレスを加えるため、禁煙が強く推奨されます。健康的な食事(塩分や飽和脂肪の少ない食事)、適度な運動、体重の管理も心臓の健康を支えます。

大動脈弁輪拡張症の外科的治療(手術について)

拡張した大動脈弁輪を根本的に治療するためには、手術が必要です。手術を行うことで、弱くなってしまった大動脈弁輪の強度が増し、血液の逆流も生じなくなります。

手術の際には、拡張した大動脈弁輪を含む、大動脈基部と逆流を起こしている大動脈弁を入れ替える大動脈基部置換術、また自分自身の大動脈弁を温存して問題を起こしている大動脈を修復する、自己弁温存大動脈基部置換術があります。

大動脈基部置換術は、ベントール(Bentall)手術とも言われますが、大動脈と大動脈弁置換の入れ替えを同時に行う手術です。通常は異常をきたしている血管と特別な線維でできている人工血管を入れ替え、また大動脈弁を人工弁に置換します。

この人工弁には機械弁を用いる場合と、ヒトやウシ・ブタなどの組織を利用した生体弁を用いる場合があります。それぞれメリットとデメリットがあるため、手術を受ける人の状況に合わせ、どの弁を利用するかは決定しています。

 大動脈弁輪拡大症(外科的手術)手技手順

 手術方法は症例によって異なりますが、大動脈弁輪拡大症の手術(ベントール手術)は以下の手順にて行われます。

  1. 開胸:全身麻酔下にて、執刀医のDrが左側開胸を行います。
  2. 体外循環開始:手術中の心臓と肺の役割を人工心肺という外部の装置に任せます。心臓の動きを止める為、心筋保護液という液体を流し、心停止させます。
  3. 大動脈基部置換:拡大した大動脈の基部を大動脈弁ごとを取り除き、新たに人工弁と人工血管を吻合します。
  4. 心臓機能の回復:切り開いた心臓や血管を縫合し、人工心肺を停止し、心臓の動きが自然に回復することを確認します。
  5. 閉胸:患者様の全身状態に注意しながら閉胸し、手術終了です。

入院~退院後の流れと、リハビリについて

心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。

よくある質問

こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。

大動脈弁輪拡張症とは何ですか?

大動脈弁輪拡張症(AAE)は、心臓の大動脈弁の基部が正常よりも拡大する病態を指し、大動脈根部の拡張や大動脈弁の機能不全を引き起こす可能性があります。

大動脈弁輪拡張症の原因は何ですか?

主な原因には遺伝的要因、高血圧、動脈硬化、マルファン症候群などがあります。加齢による組織の自然な変化も寄与することがあります。

大動脈弁輪拡張症の症状にはどのようなものがありますか?

症状には呼吸困難、疲労感、動悸、失神、胸痛、心房細動、手足のむくみなどがあります。症状は、狭窄の程度や患者の健康状態によって異なります。

大動脈弁輪拡張症の診断方法は何ですか?

診断方法には聴診、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、血液検査などがあります。これらの検査で心臓の状態や機能を詳しく調べます。

大動脈弁輪拡張症の治療方法にはどのようなものがありますか?

保存的治療には薬物療法、心不全や不整脈の管理があります。重症の場合は、大動脈基部置換術やベントール手術などの外科的手術が必要になることがあります。

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心疾患情報執筆者

心疾患情報執筆者

竹口 昌志

看護師

プロフィール

看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)