急性動脈閉塞症(AAO)の概要
急性動脈閉塞症は、動脈が急激に詰まってしまう状態のことであり、動脈が詰まった先の組織には血液が届かなくなるため、様々な臓器の機能低下を引き起こす恐れがあります。
突然血流が途絶えるため、上肢や下肢に発症した場合には激しい疼痛や感覚低下、色調変化などの症状が現れます。時間経過と共にさらに病状が進行すると、患部を切断しなければならないので迅速な診断と治療が重要となります。
急性動脈閉塞症(AAO)の定義と原因
急性動脈閉塞症(AAO)の定義
急性動脈閉塞症は、血液の流れが動脈内で急に遮断される状態を指します。これにより、影響を受ける組織や臓器に酸素や栄養が十分に供給されなくなり、痛み、機能障害、場合によっては組織の壊死に至ります。
急性動脈閉塞症(AAO)の原因
急性動脈閉塞症の主な原因は、心房細動などの不整脈によって形成された血栓が血流に乗って急に詰まる「塞栓症」と動脈硬化などにより動脈の内腔が閉塞する「血栓症」の2種類があります。他に外傷による急性動脈閉塞があります。
外傷による動脈閉塞
外傷による動脈閉塞は、事故や怪我などによって動脈が直接的に損傷を受けて血流が遮断される状態です。損傷部位からの出血、血管の炎症反応、あるいは血管内腔の完全な閉塞により、急性動脈閉塞が生じます。
動脈硬化による影響
動脈硬化は、動脈の壁が厚くなり硬直する病態で、血管内の脂肪やカルシウムの蓄積が主な原因です。動脈硬化が進行すると、狭窄部位で血栓が形成されやすくなり、これが脱落して遠隔部の動脈を急に閉塞させることがあります。
急性動脈閉塞症(AAO)の症状
急性動脈閉塞症は、発症からの時間経過によって症状は大きく異なり、急性動脈閉塞による手足の切断、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な合併症などを引き起こす可能性があります。急性動脈閉塞症の代表的な症状としては以下の5つがあります。
- 疼痛(Pain)
- 脈拍消失(Pulselessness)
- 蒼白(Pallor/Paleness)
- 運動障害(Paresthesia)
- 知覚障害(Paralysis/Paresis)
急性動脈閉塞症(AAO)の影響
急性動脈閉塞症は、血液の流れが急激に遮断されることによって組織や臓器への酸素および栄養素の供給停止などが起こります。この状況は、組織の虚血や壊死に直接つながり、体内のさまざまな機能に影響を与えます。
心臓への影響
心臓は全身に血液を送り出すために豊富な酸素と栄養が必要です。急性動脈閉塞症が心臓を栄養する冠動脈に影響を及ぼした場合、心筋組織は急速に酸素欠乏状態に陥り心筋梗塞を引き起こします。
心筋梗塞へのリスク
心筋梗塞の定義: 心筋梗塞は、心臓への血液供給が一部遮断された結果、心筋が虚血状態に陥り、最終的に心筋組織が死滅する状態を指します。
- リスク要因: 急性動脈閉塞症は、特に冠動脈が影響を受ける場合、心筋梗塞を引き起こす主要なリスク要因の一つです。閉塞が発生すると、心筋への血液供給が急激に停止し、心筋組織が酸素不足に陥ります。
- 影響の程度: 心筋梗塞の影響は、閉塞の位置、閉塞の大きさ、および血流が遮断された時間の長さによって異なります。心筋梗塞は、心不全、不整脈、ショックなどの重篤な合併症を引き起こし、死に至るリスクがあります。
全身への影響
急性動脈閉塞症は、血液の流れが遮断されることによって、体の各部位への酸素と栄養素の供給が不足し、組織の虚血や壊死につながります。これは臓器機能の障害や末梢組織の虚血を引き起こし、患者の健康に重大な影響を与える可能性があります。
臓器機能への影響
動脈閉塞が発生すると、影響を受ける臓器は酸素と栄養素を十分に受け取れなくなり、その機能が障害されます。大きな影響を受けやすい臓器として以下があります。
- 脳: 脳への血流が遮断されると、脳梗塞のリスクが高まります。脳梗塞は、身体機能の障害や認知機能の低下につながる可能性があります。
- 腎臓: 腎臓は血液を浄化し、体内の液体バランスを調節する重要な役割を持ちます。急性動脈閉塞症により、腎臓への血液供給が不足すると、腎不全を引き起こす可能性があります。
- 腸: 腸への血液供給が不足すると、腸虚血を引き起こし、消化不良や腸の壊死に至ることがあります。
末梢組織の虚血
- 定義: 末梢組織の虚血は、手足などの末梢部分への血液供給が遮断されることにより、組織が十分な酸素を受け取れない状態を指します。
- 影響: 末梢組織の虚血は、痛み、色素の変化、感覚の喪失、さらには組織の壊死に至ることがあります。特に糖尿病患者において深刻な合併症を引き起こす可能性があり、救肢のために手足の切断を余儀なくされる場合もあります。
一般的に急性動脈閉塞症の発症後6時間以内に血流が再開できれば、手足などの切断の回避が可能といわれています。
急性動脈閉塞症(AAO)の診断方法
臨床診断の重要性
臨床診断は、患者の症状や身体的所見に基づき、急性動脈閉塞症の可能性を評価する初期段階です。重要な点は以下の通りです。
- 症状の確認: 疼痛の有無や程度、発症の速さ、影響を受けている部位の特定。
- 身体検査: 冷感の有無、脈の欠如、色素変化、感覚喪失など、虚血の兆候を探す。
- 既往歴とリスク因子: 動脈硬化、糖尿病、高血圧など、動脈閉塞症のリスクを高める要因の評価。
画像検査
画像診断技術は、臨床診断を補完し、動脈閉塞の位置や範囲を正確に特定するために使用されます。
超音波検査
- 目的: 血流の速度や方向を評価し、閉塞箇所を特定。
- 利点: 非侵襲的で血流評価が可能。
CT・MRI検査
- CT: 高解像度の画像で血管の構造を詳細に観察し、閉塞箇所を特定。
- MRI: 組織や血管の損傷を高いコントラストで視覚化し、構造的異常や血流の問題を特定。
血管造影検査
- 定義: 血管内に造影剤を注入し、X線を用いて血管の像を得る検査。
- 目的: 閉塞の正確な位置、長さ、および周囲の血管の状態を詳細に評価。
- 適応: 画像診断で不明確な場合や、治療計画の立案に役立つ詳細情報が必要な場合に実施。
急性動脈閉塞症(AAO)の薬物療法
薬物療法は、主に急性動脈閉塞による血流の改善、血栓の溶解、再閉塞の予防を目的として使用されます。
血栓溶解療法
- 目的: 血栓を直接溶解し、閉塞している動脈を開放します。
- 使用薬剤: tPAなどの血栓溶解剤。
- 適応: 急性期における心筋梗塞や肺塞栓症、深部静脈血栓症など、特定の条件下で有効。
抗凝固療法
- 目的: 新たな血栓形成を予防し、既存の血栓の成長を抑制します。
- 使用薬剤: ワルファリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、新規経口抗凝固剤(NOACs)など。
- 適応: 血栓溶解療法後や、血栓形成リスクの高い患者に対して有効。
カテーテル治療
- 技術: カテーテルを使用して血管内にアクセスし、フォガティーカテーテルなどを用いて血栓を物理的に除去したり、ステントを挿入して血管を拡張します。
- 適応: 冠動脈疾患、末梢動脈疾患など、特定の血管の閉塞に対して効果的。
急性動脈閉塞症(AAO)の外科的治療
- 技術: 閉塞している動脈を直接外科的に修復するか、バイパス手術を行って血液の迂回路を作成します。
- 適応: 重度の血管疾患や、血管内手術が不可能または不十分な場合に選択されます。
生活習慣の改善
生活習慣の改善による予防策は、日常生活における健康的な習慣の実践を通じて、急性動脈閉塞症のリスクを減少させます。以下は、生活習慣の改善において重要です。
- 定期的な受診: 高血圧、高コレステロール、糖尿病などの状態を早期に発見し、管理することが、動脈閉塞症の予防に不可欠です。
- 禁煙: 喫煙は動脈硬化を加速させ、血管の損傷を引き起こす主要な原因です。完全な禁煙は、血管健康を改善し、動脈閉塞症のリスクを大幅に減少させます。
- 健康的な食事:野菜の摂取や飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、砂糖、塩分の摂取を減らすことで、高血圧、高コレステロール、および動脈硬化のリスクを低減できます。
- 定期的な運動: 歩行やジョギングなどの有酸素運動を行い、心血管系の健康を促進します。
- 健康体重の維持: 適切な体重の維持は、高血圧、糖尿病、およびその他の心血管疾患のリスクを低減します。適正のBMIとウエストサイズを保つことは重要です。
- ストレス管理: 長期間のストレスは血圧を上昇させ、心血管系に悪影響を及ぼす可能性があります。リラクゼーションの習慣化が効果的です。
入院~退院後の流れと、リハビリについて
心臓手術を受ける患者の入院から退院後に至るまでのプロセスと、心臓リハビリテーションについては以下のリンクをご参照ください。
入院中のケアから、退院後の生活への適応、そして心臓リハビリテーションを通じての健康回復と生活質の向上に至るまで、ご紹介しています。
よくある質問
こちらのコラムの内容の要点を「よくある質問」からまとめています。
急性動脈閉塞症(AAO)とは何ですか?
急性動脈閉塞症は、動脈が急激に詰まり、血液が届かなくなる病状を指します。この状態は、影響を受ける組織や臓器に酸素や栄養が供給されなくなり、痛み、機能障害、組織の壊死に至る可能性があります。
急性動脈閉塞症の主な原因は何ですか?
主な原因は、不整脈から生じる血栓が動脈内を急に詰まらせる塞栓症、動脈硬化による血栓症、そして外傷によるものです。これらは血液の流れを阻害し、重篤な症状を引き起こします。
急性動脈閉塞症の代表的な症状にはどのようなものがありますか?
急性動脈閉塞症の症状には、疼痛(Pain)、脈拍消失(Pulselessness)、蒼白(Pallor/Paleness)、運動障害(Paresthesia)、知覚障害(Paralysis/Paresis)などがあります。これらの症状は急性動脈閉塞の兆候です。
急性動脈閉塞症の診断方法にはどのようなものがありますか?
診断方法には、臨床診断の他に超音波検査、CT・MRI検査、血管造影検査があります。これらは血流の状態を評価し、閉塞箇所の特定に役立ちます。
急性動脈閉塞症の治療方法にはどのようなものがありますか?
治療方法には、血栓溶解療法、抗凝固療法、カテーテル治療、外科的治療があります。これらは血流の改善、血栓の溶解、再閉塞の予防、および閉塞している動脈の修復または迂回を目的としています。
関連コラム
【参考文献】
・一般社団法人 日本循環器学会
末梢動脈疾患ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf【株式会社増富の関連コラム】
・末梢血管治療(EVT)
心疾患情報執筆者
竹口 昌志
看護師
プロフィール
看護師歴:11年
《主な業務歴》
・心臓血管センター業務
(循環器内科・心臓血管外科病棟)
・救命救急センター業務
(ER、血管造影室[心血管カテーテル、脳血管カテーテル]
内視鏡室、CT・MRI・TV室など)
・手術室業務
・新型コロナウイルス関連業務
(PCR検査センター、コロナ救急外来、HCU、コロナ病棟、
コロナ療養型ホテル、コールセンター)